c) 宮野入谷戸
狭山丘陵で最も大きな谷戸であり、六道山公園の直下よりほぼ南に向かって谷戸が開せきしている。東西をはしる尾根筋にはアカマツを主体とした二次林が連なり、そこから谷戸に続く斜面はコナラ林によって広く覆われている。かつては水田が拓かれていた谷底部は、耕作放棄後湿性草地に変っていたが、近年東京都による公園整備の一環として下流域および中流域で水田が復元されている。
上流域から中流域において5本のベルト(M1区〜M5区)を設定して調査を実施した。
◇M1区(図I-1-10:植生断面図/表I-1-12:林床・湿地群落組成)
最上流部で分岐する二つの谷戸にまたがる調査区である。西側谷戸の右岸と東側谷戸の左岸はやや階層構造の発達したコナラ林であるが、谷戸にはさまれた丘脚部は一部でコナラの混交するヒノキ植林となっており、低木層にはヒサカキが優占している。林床群落では全体的にアズマネザサが優占し、なかでも東谷底部とその左岸ではSDRが100でほとんど密生した純群落となっている。とくに東谷底部では多様度指数は0.65と低い値を示している。
◇M2区(図I-1-11:植生断面図/表I-1-13:林床・湿地群落組成)
上流部の用水池跡に設けた調査区である。谷底部の湿地帯にハンノキの小群落があり、狭山丘陵においては数少ない自然植生がみられる地区となっている。
右岸丘脚部は高木層にヤマザクラを含むコナラ林であるが、谷底部は高木層、低木層ともにハンノキが優占し、左岸のコナラ林では低木層にヒサカキやヒノキの出現が目立つ。湿地はカサスゲのまとまった群落によって占有され(SDR90.0)、右岸および左岸の樹林帯では、いずれも林床においてアズマネザサが優占している(SDR100および93.3)。ただ、右岸丘脚部には緩やかな斜面林の奥に湧水点があり、ここの林床植生の多様度指数は0.82と高い値を示している。
◇M3区(図I-1-12:植生断面図/表I-1-14:林床・湿地群落組成)
中流域に設けた調査区の一つ。右岸はやや階層構造が発達したコナラ林であるが、左岸は地形改変が行われ広いススキ草地となっている。右岸の林床群落の組成はアズマネザサが優占しており(SDR100)、多様度指数も0.73と低くなっている。
また、谷底部の湿地はヨシ群落で、多様度指数は0.81を示している。