2)わが国のリバース・モーゲージ型福祉資金提供制度の課題
前述のように、わが国でお自治体、福祉公社によるリバース・モーゲージ型福祉資金提供制度が既に実施されているが、表2に示したようにその実績はまだ多くはない。潜在的なニーズは多いと思われるが、大半の制度は金融機関への斡旋方式をとっており、金融機関の審査要件が厳しく、なかなか制度の利用が円滑に進まないのが実状である。以下、現在の制度運用において顕在化している課題について整理しておきたい。
1]要件の緩和
斡旋方式では金融機関の融資条件が実質的な条件となっている。相続人全員の同意や2人以上の法定相続人のうち2人以上の連帯保証人が求められたり、マンションが担保の対象外となったりするなど、その厳しい条件がネックになって成約に至らないケースを増やしている。こうした要件の緩和を融資リスクの軽減とあわせてどのように進めるかが課題となっている。
2]担保切れリスクヘの対応
担保切れリスクヘの対応策として評価の適宜見直しが必要であるが、融資停止後のペナルティをどこまで免除するかが問題となる(居住の継続は認められることが多い)。中野区ではアメリカのHECMやFHA保険の仕組みに着目し、民間保険会杜との契約を検討している。また、担保切れリスクの発生可能性が高まった段階で自治体が担保物件を公的資金で取得し、賃貸住宅化することも考えられている。
3]意思能力喪失への対応
高齢者が痴呆化するなどして意思能力を喪失した場合、継続の見直しや担保物件の処分に関する判断が困難となることが考えられる。中野区では法律扶助協会と提携し、また、品川区では(資産活用よりも優先的に)財産保全・管理サービスを整備し、成年後見的役割を果たせるようなシステムの構築に向けて準備を進めている。
4]社会保障制度との関係
社会保障制度の一環として利用する場合、有資産者のサービス利用の問題や、逆に資産を持たない高齢者への別途制度の整備などが検討されねばならない。
5]広報の強化
高齢者への広報が十分ではなく、情報が行き渡っていないことが制度利用の低迷の原因とする指摘も存在する。
(3)リバース・モーゲージ方式による固定資産税延納制度
1)リバース・モーゲージ活用の基本的視点
アメリカの地方財産税においてはリバース・モーゲージ方式による延納制度が多くの地方団体で整備されている。財産税の延納制度は使途を財産税の納税猶予に特定した、広義のリバース・モーゲージ制度として定義され、1963年からDeferred Payment Loan(DPL)、Property Tax Deferral(PTD)の2制度が実施されている。1994年現在で前者の契約者は9万人、後者のそれは8万人である。