日本財団 図書館


参考論文1

出典: 『都市問題研究』第52巻4号2000年4月

高齢者介護と地方財政

奈良女子大学生活環境学部助教授 木村陽子

 

1. はじめに

2000年4月から介護保険が導入される。高齢者介護については新しい時代を迎えるだけではなく日本の自治体行政はこのことを契機として大きく変わる可能性がある。高齢者介護、地域福祉は今後の社会理念のひとつである『ノーマリゼーション』と『リハビリテーション』に大きくかかわっている。この2つは、老若男女、障害を持つ人も健常者も共に地域で通常の暮らしをする、ということと、障害は固定したものではなく改善されるものであるという信念にたっている。1950年代にデンマークの障害者福祉の中から生まれたものであり、施設に収容されることに反発から生まれたものであった。

『ノーマリゼーション』と『リハビリテーション』を実現するためには、施設も地域に開かれたものであり、また誰もが職場や住居などに移動が簡単で、かつ生活能力や身体能力の向上をめざすことができることが必要になる。このことに機会均等の考えが加われば、アメリカ障害者法のように公共交通機関や公共施設、不特定多数が利用する建造物は、健常者か身体の障害にあるかにかかわらずアクセスできることが重要になる。つまり、福祉分野だけではなく、都市計画や交通体系、住宅、人間工学、生涯学習、リハビリの専門家など多くの分野が街作りに協力する必要がある。なかでも、核となるのは地域福祉である。

わが国では、1990年の老人福祉法の改正で高齢者福祉は市町村の仕事となった。高齢者福祉が地方自治体の仕事であるのはわが国に限ったことでなく、先進諸国に共通したことである。高齢者福祉が基礎的自治体である市町村の仕事とされる理由は、次の4つにまとめることができる。第1は、生活全体を支える福祉は住宅なども含めてその人の個別のニーズに対応しなければならない。その基本は生活のソフトであり人的サービスが基本である。したがって高齢者福祉は、住民に身近な市町村が最もニーズをよく把握できることである。

第2は、ニーズは地域によって異なるため、地域ごとに意思決定をするのが効率的であると考えられるからである。第3は、財や人的サービスの供給は地域制約的であるからである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION