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命の活動というのは一刻も止まない。そして森には多種多様の木が生えているから強いわけですよ。自然の森っていうのは強いですよ。それが、人工林にしたら、ひとつのごぼう根になるわけですよね。例えば、あの教育の、今非常に問題になっているけれども、みんな同じ子に育てる、偏差値があって、偏差値の高い、進学校に進みやすい子どもを育てる、いい大学に入れるように。そういう子どもを育てる。なんでいい大学に入れるかっていえばいい暮らしができるから。何がいい暮らしか、なんか、よく分からなくなってきた時代ですけれどもね。みんな同じ個性のない子どもに育てるというのは山の話をするならば、杉の木を植えるようなもんでしょ。「右向け、右。」って言うとみんな右をバッと向くわけです。ひとりくらい「右向け、右。」って言って、30人がこっち向いてんのに、ひとりくらいこっち向く子がいたほうがいい。みんなこっち向いているときに、こっちから悪い人が来たらば、バカッてやられて終わるけれども、ひとりくらいこっち向いてたら、「ああ、なんか変な人来たよ」って言えば、全員が助かってしまうとか、そういうこともあるわけですね。これは象徴的な話ですけどねえ。僕は多種多様さというのは、多様性というのは自然の秘密だと思っています。森の秘密だと思っている。

 

多種多様な生き物がいるから、

人間も生きられる。

 

僕は栃木県で生まれ育った人間でありまして、日光という所があって、このあいだ世界遺産に入ったんですが、日光のある種の蝶々というのは、例えばですよ、キハダという木の葉っぱしか食べないんです。別の種類のアゲハチョウはカラタチという木の葉っぱしか食べない。これはものすごい偏食ですよね。そして、普通学校だったらすぐ教育的指導がはいるところです。ところがキハダしか食べないってことは、山にたくさんの植物があるうちの一種類しか食べないってことですよ。つまりいろんな木が、植物が生きていなければ、そのアゲハチョウは生きることはできない、ということを意味しているわけですね。つまり棲み分けをしているわけです。「私たちは少ないキハダしか食べませんから、他のみなさんは別のものを食べてください」と言うわけですよ。そしたら私たちは、「じゃあカラタチを食べましょう、だから他のみなさんはカラタチには手をつけないでください」とか、そういうふうに食べるものも自然のうちに分けて、棲み分けしているわけです。

だから多種多様な植物がいなければ、多種多様な虫は生きることができない。虫が生きることができなければ、鳥も魚も生きられませんでしょ。食物連鎖ですから。そうするとやっぱり人間も生きられなくなるという道理なんですね。

それでね、鳥の話ついでに、もう一つ鳥の話をしますが、このあいだ僕は諫早湾、ちょっと最近ますます有名になりましたけどね、干拓して水門を閉じる。あのまえに好きで何度も行ってね、あそこはすばらしい。その干潟があるわけですよ。満ち潮と引き潮の差が6mくらい干満の差がありまして、日本でたぶん一番あそこが差が多いと思うんですが、僕はそれを知らないで行って、舟つないで遊んでいて、その遊んだ舟を棒杭につないで、また、飯でも食いに行って帰ってきたら、その舟が首吊り状態になっていて漁師に怒られたことがあったんですけども。

 

 

 

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