最後に、対策の実施効果の計測について述べる。定量的な目標を達成するためには、各対策の効果を定量的に計測することが必要不可欠である。対策の効果の考え方には2つの考え方がある。1つは、対策の実施によって直接変化する交通行動によって削減される温室効果ガス発生量を効果とする考え方であり、もう1つが、対策により変化した交通行動が他の様々な活動に影響を与え、その結果として、その活動によって起こされる交通行動が変化し、さらに初めに対策により変化した交通行動も影響を受け変化した結果として生ずる交通行動によって削減される温室効果ガス発生量を効果とするという考え方である。たとえて言えば、池に石を投げ入れた時に最初に生ずる波紋の形を効果と考えるのと、波紋が広がり、端で反射し、相互に干渉し合った結果として生ずる波紋の形を効果と考えるのとの2つである。
前者の考え方を採用すると、個々の対策の効果は比較的容易に計測できるが、複数の対策を同時に実施した時の効果を個々の対策を実施した時の効果の和として求めると誤差が大きくなる場合が多い。これに対し、後者の考え方を採用すると、最初に考慮対象の対策が影響を与える全ての活動や交通行動を同程度の精度でその相互関係を含めて把握するために多大な努力が必要となる。しかし一度こうした整理ができてしまえば、個々の対策の効果も複数の対策を同時に実施した時の効果も同じ精度で計測できる。
理論的には、相互作用を含め、効果を捉えられる後者の考え方が適切と考えるが、対策が影響を与える範囲を間接的影響まで含めて把握することは、温室効果ガス発生量抑制対策の実施実績が少ない現状では実際上非常に難しいと考えられる。したがって、当面は前者の考え方で効果を計測し、対策の選択を行っていくことが適当と考えている。そして対策実施の実績を積み重ね、その結果を生かして、後者の考え方で効果を計測することを試みることが適当であろう。多くの地方自治体で対策が実施され、その結果が全ての地方自治体に共有され、後者の考え方に沿って効果計測が行われるようになることを期待したい。
参考文献
『地球温暖化対策に関する基本方針』環境庁、平成11年4月
『京都市役所エコオフィスプラン−環境保全に向けた率先実行計画−』京都市、平成10年4月
『地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体の事務及び事業に係る温室効果ガス総排出量算定方法ガイドラインについて』環境庁、平成11年6月
谷下、鹿島、正生「燃費計の設置による燃料消費量削減効果の分析」、『第13回環境情報科学論文集』PP205〜210、平成11年11月