3 自治体における交通・土地利用のグリーン化諸施策の提案
調査研究委員会 委員
林 良嗣
(1)自治体のもちうるオプション
自動車税のグリーン化(燃費効率の良い車種への税率優遇と悪い車種への重課税)が、11年12月に政府税制調査会で議論されたが、税理論上の欠点、業界の反対、省間の意見対立から、導入が見送られた。しかし、11年4月から、東京都が独自に自動車税のグリーンシフトを実施したように、自動車税は地方税であり、自治体の権限で税率をある程度変更できるのである。このように、制度自体は全国共通であっても、自治体単位でグリーン化のために中身を変更できる制度も多い。
グリーン化施策には、技術施策、制度施策、啓発施策がある。技術施策は、民間部門に依存するものである。公共が持ちうるオプションは、専ら制度施策と啓発施策である。もちろん、制度施策が民間の技術開発に対する大きなインセンティブとなることがある。例えば、90年代半ばのアメリカ合衆国のカリフォルニア州における、将来の自動車販売の10%がゼロエミッション車でなければならないとした制度施策が自動車産業に与えた影響は大きい。日本の自動車メーカーによるハイブリッド車の開発は、このカリフォルニア州の規制に大きく左右されたと言われている。東京都による自動車税のグリーン化も、燃費効率の悪い高車齢車から新車、特に低燃費車への買い替えを促進する直接的効果とともに、自動車利用者の環境意識醸成効果や、自動車メーカーに対する燃費効率の良いエンジン開発へのインセンティブを高める効果があると考えられる。
このことから、それぞれの地方自治体が実施する施策は、国全体、場合によっては全世界に影響を及ぼすことが言える。つまり、自治体の思い切った意思決定は非常に重要な意味を持つものであり、その責任は重大である。
ここでは、欧州の事例も含めて、自治体が採りうる、温暖化対策オプションの紹介を織り交ぜつつ、我が国の自治体に推奨される施策について解説する。
(2)土地利用・交通政策の転換
ア 交通計画に対する理念の逆転:「需要予測→道路インフラ整備」から、「道路インフラ容量→自動車抑制」へ
従来の伝統的な交通計画では、将来交通需要を推計して、それを賄える規模の交通インフラを建設してきた。しかし、生産年齢人口の減少等から将来ともに自治体の税収が減じていく基調の下では、既存のインフラを最大限に有効活用しつつ、需要の発生を既存インフラのキャパシティ(供給)に合わせていかざるを得なくなってきている、という認識を持つことがまず重要である。特に、道路交通については、このことが重要である。
英国の'99交通白書で打ち出された新交通政策では、この考え方が前面に出され、現在、各方面で実施に移されている。実際、1987年に開通したロンドンの外郭環状高速道路M25は、ロンドンの通過交通を排除するために、全長約200?(直径約60?)、片側6車線で開通した。しかし、当初予測した通過交通を遥かに上回る交通量が発生し、まもなく大渋滞を起こすようになり、ヒースロー空港に近い西部を8車線化したが、すぐにまた車で埋まってしまった。この象徴的な現象、すなわち、道路に新たなキャパシティを与えると、それまで渋滞による所要時間の長さのために顕在化していなかった需要が、それが解消されることによって顕在化するという、誘発需要の発生が起こったのである。
これは、1台の車を買う市民の資金能力の方が、1台の車を走らせるのに必要な道路を建設する資金能力よりも遥かに高いことからも、容易に想像できよう。