先にも触れた地方自治体を対象としたアンケート調査結果によると、温室効果ガスの発生量抑制対策の実施状況及び地方自治体が作成している諸計画の中で、温室効果ガスの発生量に配慮している状況共に、人口規模の大きな地方自治体ほど実施している割合が高くなるという傾向を明瞭に示している。人口規模を人口密度と読み換えれば、運輸部門について言えば、自動車の保有台数が高く温室効果ガス発生量の抑制対策の必要性の高い地方自治体ほど直接的な対策は実施していないことに加え、地方自治体が行う事務・事業を含め、様々な活動を決定する際にも温室効果ガス発生量を抑制していくための配慮がなされていないということである。温室効果ガスは、NOX、SPM等のいわゆる自動車交通公害のように交通量が多く交通公害が著しい地域で、NOX、SPM等の発生量を削減しなければ効果がないということではなく、日本中どこの地域で削減しても基本的には温暖化の防止効果は等しいものである。さらに我が国で、現在急速に進んでいる高齢化社会や、これから向える人口減少という社会状況の中で、人口規模の小さい地方自治体ほどこれらの影響が急激に現われる可能性が高いと考えられる。これらのことを考えると、人口規模の小さい地方自治体での温室効果ガス発生量抑制対策を実施するための体制作りと、地方自治体が行う事務・事業を含め全ての活動を行っていく際に、温室効果ガス発生量に配慮していくための体制作りが急がれる。
次に対策の選択について述べることにする。運輸部門での温室効果ガス発生量の大半を占める自動車交通を対象とした対策は、大きく、道路整備による道路容量の拡大、道路等供給側での運用方法、例えば信号制御とか走行規制とかの改善、道路利用者である自動車交通量等の管理、抑制の3つに分けられる。さらに自動車交通量等の管理・抑制は、法律等に基づく規制的手段を用いた対策、料金、税金等の経済的手段を用いた対策、各種の協定、計画等の自主的手段を用いた対策に分けられている。地方自治体は、それぞれが置かれている状況を充分考え、体系的に示されたこれらの対策の中から実施可能な対策を選択し、これを実施する。言わば、できることをやるという姿勢で対策の選択を行っていると言える。それでは温室効果ガス発生量の抑制問題は、こうした対策の選択方法で解決できるのであろうか。我が国全体での温室効果ガス発生量の抑制目標は既に定量的に定められ、国家間の約束となっている。努力はしたが目標は達成できなかったということは、原則として許されないのである。国としての抑制目標を各地方自治体に整合的に細分化し、各地方自治体ごとに定量的目標を作成することは現状では困難であろう。しかしだからと言って、国としては達成しなければならない目標が既に決まっているにもかかわらず、国を構成する地方自治体ができることだけやるという姿勢で対策を実施していて許されるのであろうか。
地方自治体でも、現状では国の目標と必ずしも整合的ではないにしろ、それぞれ定量的な目標を立てて対策を選択していくことが必要である。地方自治体が定量的な目標を自ら立てることで、できる対策を選択するという姿勢から目標を達成するために必要な対策を選択するという姿勢に変わり、そしてもし最初の計画期間で目標が達成できなくても、何が原因で目標が達成できなかったのかを定量的に分析することが可能になり、その成果は次の期の対策作りに生かすことができるようになる。そして一方、国も各地方自治体が決めた目標から国としての目標が達成可能か否かを信頼度高く検討でき、必要に応じて追加的な対策を後手に回ることなく実施することができるようになる。以上のように、地方自治体での定量的な目標作りと目標達成に必要な対策を選択することは、温室効果ガス発生量抑制にとって非常に重要である。