5 おわりに
本論では、公的介護保険制度の導入に合わせて、市町村が「老人保健福祉計画」という形で提示した高齢者ケア・サービスの目標水準に焦点を当て、それがどのような制度的・経済的・地域的要因によって説明可能であるかを、計量的に分析することを試みてきた。今後、社会保障や社会福祉の領域でも、政策目標に対しての有効性やマネージメントという視点が重要となってこよう。ここで行った分析の解釈には一定の限界を伴うが、分権化時代を迎えて、地域福祉領域における政策論を展開するための1つの分析手法を提示することができたのではないか。
また試算結果については前節で概観してきたが、そこでは予想と整合する結果、逆に整合しない結果、加えて興味深いファクト・ファインディングも得られた。ただし、高齢者ケア・サービスの目標値を説明するその要因が、なぜそこではプラスあるいはマイナスの効果(相関)をもっているのかという解釈になると、明確に説明できない点もあった。そうした点についての解明は、今後の研究課題になりえるだろう。
しかしそれと同時に、ここでの分析をもとに政策論を展開するには、まだ困難が多いということを認識しておく必要もある。最後に、本章の分析の限界と今後の課題をまとめておこう。
第1に、ここで分析対象に取り上げた自治体の施設ケアおよび在宅ケアのサービス水準は、各自治体が「ゴールドプラン」に基づいて策定した「老人保健福祉計画」の中の目標値であった。したがって、それはあくまでも2000年時点で必要と見込まれる高齢者ケア・サービスの需要水準に関する予測、あるいはサービスの供給可能性を示すものである。つまり、それが真の(実際の)高齢者ケア・サービスの需要水準と一致している保証はない(12)。
さらに、「老人保健福祉計画」の中の数字が仮に適切なものであったとしても、この予測あるいは供給可能性を表したサービス水準が、2000年時点で実現できているかどうかは別問題である。「はじめに」のところで述べたように、公的介護保険がスタートする時点で、多くの自治体が「老人保健福祉計画」で示した数字を達成できていない可能性が危惧されている。したがって、ここで試算した結果も、あくまでそうした計画上のデータを扱った分析であると理解しておく必要がある。
第2に、この種の実証分析に共通する問題として、サービスの質に関する問題があげられる。老人ホームにしても、ホームヘルプサービスにしても、サービスの細かな内容の違いや質の違いを量的なデータで把握することの難しさがある。