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しかし、高齢者の満足度や政策の有効性を評価するには、本来サービスの質はきわめて重要な要素である。今回の分析で使用したような量的なデータでさえ不十分な現状においては、データの整備とさらにはそこに質的な情報を反映させていく努力を行政には要望したい。

第3に、ここでは自治体が責任をもつサービスが分析対象となっていたが、非営利組織によるサービスも含めて、公的サービス以外の民間企業やボランティア組織によるサービスとの関係を把握できていない点があげられる。公的介護保険制度の導入に際しては、民間部門も積極的なサービス提供の担い手として期待されている。そしてこの間、すでに多数の民間企業が介護サービス市場への参入を表明し、実際に一部の企業はサービスの供給を開始している。とりわけ民間部門からのサービス供給がどの程度期待されるかは、自治体間あるいは都市部か地方部かでかなりの違いが発生すると想像される。介護サービス市場をめぐる民間部門・公的部門・非営利部門の間の相互関係、あるいはそれらを総合したサービス供給体制の評価ということを考えていく必要がある。

 

(1) 各自治体が1993年に策定した「老人保健福祉計画」を踏まえて、「ゴールドプラン」から5年経過した1994年には新たに「新ゴールドプラン」が策定され、介護サービスの目標水準が引き上げられた。

(2) たとえば、「ゴールドプラン(1989)」の中には、「寝たきり老人ゼロ作戦」であったり、「寝たきりを前提とした施策から寝たきりにしないための施策」という表現がある。公的介護保険制度の導入を最初に提案したとされる厚生省・老人保健福祉審議会の中間報告書(1995)では、「高齢者が自立した質の高い生活を送れるよう社会的に支援していくこと」という表現がある。

(3) 長峯(1998)では、介護サービスのD-アウトプットを施設ケア、在宅ケア、介護補助設備、介護補助サービス、介護グッズ、人材養成の6タイプに分類し、公共財の理論を用いて効率的な供給システムについて検討している。厚生省の分類では、ホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイが在宅ケア3本柱とされているが、本論では実際にサービスが在宅で行われるか、施設で行われるかという点から分類している点に注意されたい。

(4) 以下で「高齢者人口」という場合には、65歳以上人口を指すものとする。

(5) 市町村「老人保健福祉計画」の各サービスの目標値の算定は、通常以下1]〜3]のような手順で行われる。

1] 自治体は、高齢者の15〜20%にアンケート調査(老人保健福祉計画策定に開する実態調査)を実施し、健康状態に関する質問を通じて高齢者を次のようなカテゴリーに分類する。まず高齢者全体が(I)健常者と(II)要介護・要援護者に分けられ、次に後者が(i)施設入所者と(ii)在宅ケアの必要者に分けられる。さらにその後者が、(a)寝たきり老人、(b)要介護痴呆性老人、(c)在宅虚弱老人に分けられる。そしてさらにまた、在宅の要介護者(a)〜(c)は、介護力がどれだけ確保されているかによって、3段階(A、B、C)に分けられる。つまり、在宅の要介護者は9つのカテゴリーに分類されることになる。

2] 上記のそれぞれのカテゴリーに属する高齢者比率から、各カテゴリーに属する高齢者の出現率を求め、その値と高齢化の予測値をもとに、2000年時点の各カテゴリーの高齢者数を推計する。

3] 在宅要介護者の9カテゴリーに、それぞれ厚生省のマニュアルあるいは県の「老人保健福祉計画」によって与えられた各介護サービスの目標水準(たとえばホームヘルプサービスが週何回必要か)を与え、それをもとに各介護サービスの必要総量を計算する。

(6) 財政力を表す変数として、たとえば1人当たり課税対象所得をとることも可能である。しかし、この変数は予備的推定から他の説明変数との相関係数が高いため、ここでは地方税収をとることにした。

 

 

 

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