5 「介護保険」に含まれる要素
介護保険を巡る議論には、次に掲げるように幾つかの要素が混じり合っている。
(1) ドイツにおける介護と保険
ドイツにおいては、従前から介護システムは存在し、最近その運営を保険財政システムによって行うこととした。日本においては、介護の導入と保険の導入が同時であるため、両者を混同した問題点も見受けられる。
例えば、保険財政の安定といった点からすれば、幾つかの小規模市町村が広域連合化した程度で、財政破綻リスクが回避できるのかどうかといった問題点があるし、介護サービスのシステムとしては、住民に身近な福祉サービスを提供する観点から、逆に広域化に歯止めをかける意見も多い。
(2) 3万円のベッドとホテル −高齢者の住居問題−
介護の問題が高齢者の住宅問題を含まざるをえないことは前述のとおりである。例えば、個室に入院して一日3万円で良心的とされる病院がある。この費用について、全て医療保険によって賄われていないということは、住居、介護、医療の問題が混在している一つの例と言える。今後、医師の常駐する一日3万円のホテルとの比較など、在宅サービス等(訪問看護等)の充実によって様々なサービスの形態が想定しうるが、いずれにせよ、住宅の問題、介護の問題、医療の問題は、自己負担、保険制度、税制度といった財源の組み合わせから手当されることが原則であり、各問題ごとに整理した議論が必要である。現在は、住居の問題を混在させたまま介護の問題の議論がなされている傾向がある。
例えば、スウェーデンでは、県立の病院において医療の終了が告げられるとそれ以降の入院費は市町村負担となるため、そうした人の受け皿となる施設の整備が市町村によって進められている。
また、施策の効果や目標の設定として、高齢者にとっては、隔離された鍵のかかる個人の住居とグループホームのような共同住宅とどちらが幸せであるのか、また、社会的な費用の面からも、介護保険制度を導入していく中で、どちらの施策が適切か、個々の検討が必要とされている。
さらに、費用負担面では、住居に関して介護保険制度と一体的に解決を図る場合、施設への入居が住居サービスヘの公費導入となるのであれば、現在の住居を売却させるのかどうか等、今後、社会的資源の有効活用・公平配分の観点から考え方の整理が必要である。