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試作部品の凝固シミュレーション結果の一例を図6に示す。図6(a)は鋳造方案A(方案A; 押し湯1個)でのピストン各部の凝固時間予測結果を、また図6(b)は鋳造方案B(方案B; 押し湯5個)の凝固時間予測結果を示している。両方案とも最終凝固部は押し湯内になっている。またA方案では凝固時間(固相率70%)は約5000秒との予測結果が得られた。一方、B方案では約3000秒程度であり、小さな押し湯を分散させたことにより凝固時間が短くなった。図6(c)はA方案について、図6(d)はB方案についてのマイクロシュリンケージ発生位置を予測した結果である。マイクロシュリンケージの発生条件として凝固パラメータG/√R(G: 温度勾配、R: 冷却速度)が1.2以下の部分に欠陥発生すると仮定して予測した。両方案とも、ピストン本体ではセラミック中子周辺部と脚部の偏肉部にマイクロシュリンケージが発生するとの予測結果が得られた。

 

(3) 試作部品の製作

 

試験結果によれば、ワックスの設計収縮率0.8%に対し試作部品のワックス収縮率の平均値は0.71%であり、大部分の部位で0.8%近傍の設計値になっていた。セラミック中子は部位ごとに寸法のばらつきの少ない部品が試作できており、設計寸法を満足するものである。試作部品(鋳造品)から中子を取り除き、冷却室の寸法計測を実施した。鋳造品の収縮率も部位ごとに若干ことなるがほぼ設定値の1.6%に近い値が得られており、基準内に収まっていた。鋳造品の収縮率に関してもデータを集め、寸法精度の向上を図る予定である。

試作したピストンの概略図及び試作部品の断面写真(B方案)を図7に示す。A方案では脚部の厚肉部に中心線引け巣が発生していたが、押し湯を分散させて配置したB方案では切断面での欠陥は認められなかった。しかし、X線検査によりクラウン上部の外周部に引け巣(収縮孔)が発生している箇所も見られた。これらの欠陥を防止するためにはリング状の押し湯を配置するか外側に小さな押し湯を多数分散して配置する必要がある。

 

4. 成果

 

4-1. まとめ

 

本調査研究により得られた成果を以下に示す。

 

(1) 機械的特性と熱処理性の観点から鋳造素材としてSNCM630を選定し、焼入れ-焼戻し適正条件を把握した。鋳造素材SNCM630の機械的特性を調査し、材料要求値を満足することを確認した。

 

(2) 耐火度や中子の除去のしやすさやから精密鋳造中子としてジルコン-シリカ系を、鋳型材についてもジルコン系を選定した。また中子及び鋳型の実用可能性を実験的に確認した。

 

(3) 鋳造欠陥を除去するためにHIP処理の適正条件を把握した。また各種溶解・鋳造プロセスの文献調査と実験結果から、鋳造プロセスとして真空溶解・雰囲気鋳造を選定した。

 

(4) 各工程における収縮率の調査結果をもとにワックス金型と中子設計のための伸び尺を決定した。また鋳造方案の設計としてピストンの凝固シミュレーションを実施し、第1次のピストン鋳造方案を決定した。

 

(5) ピストンの鋳造試験を実施した。試作ワックスや中子、試作部品の寸法はほぼ設計値どおりであった。試作部品ピストンの切断検査結果から鋳造欠陥に関する知見が得られ、鋳造方案最適化のための基礎的知見を得ることができた。

 

 

 

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