(3) 鋳造法
一般的に実施されている通常の静置鋳型に鋳造する重力鋳造法は溶湯ヘッドを利用して溶湯の補給を行い引け巣を防止するものであり、今回の鋳造方法として適用した。
引け巣やガス欠陥などの鋳造欠陥の少ない高品質な鋳造品を得る鋳造方法として重力鋳造法のほか、遠心鋳造法や吸引鋳造法が適用されている。遠心鋳造法では遠心力を利用し、吸引鋳造では雰囲気と鋳型内の差圧を利用して溶湯を補給する。
遠心鋳造法は回転する鋳型に溶湯を鋳造し、溶湯に遠心力を負荷する鋳造法であり、遠心力に耐え得る高強度な鋳型が要求される。負荷する遠心力は適用製品により異なるが、一般的には20G以上の遠心場が得られる鋳型回転数で引け巣欠陥の防止に有効であるとの報告がある。溶湯中のガスや気泡、介在物の浮上速度(分離速度)はストークスの法則にしたがい場の加速度に比例するので、加速度が大きいほど気泡の浮上速度は速くなり、ガス欠陥が少なくなる。
遠心鋳造法の効果を確認するため、SNCM439を鋳造素材として遠心鋳造実験を行った。鋳造試験片は直径25mm、長さ130mmであり、試験部の遠心力は10Gから25Gとなるよう鋳型回転速度を設定した。遠心鋳造後に放射線透過試験試験を実施し、欠陥発生状況を調査した。遠心力の大きい外周側の方が試験対象部の欠陥が少なく、遠心力の効果が認められた。しかし、実験の範囲では遠心鋳造による顕著な効果は認められず、引け巣欠陥が発生していた。凝固完了まで遠心力を負荷する必要があったが、凝固が完了しないうちに遠心力の負荷を停止したことや遠心力が低めであったことが原因であると考えられる。遠心鋳造では遠心力に耐え得る鋳型、適切な遠心力の負荷、遠心力の負荷時間が重要であり、基礎的な実験データの蓄積が必要となる。
吸引鋳造は鋳型ケースに湯口を下に向けた鋳型を配置し、溶湯上面から下げて湯口を溶湯中に入れて鋳型ケースを真空ポンプで排気する。この操作により鋳型内を減圧状態として溶湯を鋳型内に吸引する。鋳型内と溶湯雰囲気との差圧を利用した鋳造方法であり、差圧は300〜400mmHg程度である。鋳型を直接減圧するのではなく、鋳型ケースを真空排気し間接的に鋳型内を減圧するため、鋳型の通気度の制御が重要であり、基礎的な実験データの蓄積が必要となる。吸引鋳造は雰囲気ガスの巻き込みがないためガス欠陥溶の防止に有効であり、差圧が溶湯の補給性を改善するため引け巣欠陥の防止にも有効である。
3-4. 試作部品の設計、製作
(1) ワックス用金型及び中子の設計
モデル試験片の形状とワックスおよび鋳造品の収縮率実測結果を表6に示す。ワックスの収縮率は平均0.8%程度であり、またワックスの収縮率を含めた鋳造品の収縮率は2.85%であった。測定結果をもとにワックス金型の伸び尺を2.5%とした。中子の伸び尺は単純には鋳造品の収縮率からワックス収縮率を差し引いた2.0%であった。中子が鋳造品の収縮の拘束になる可能性があることや中子の収縮率を大き目に見積もった場合、ピストン本体の肉厚が薄くなるため、中子の伸び尺は1.6%として設計した。
(2) 試作部品の鋳造方案
試作部品ピストンの鋳造方案設計として押し湯寸法を検討した。ピストン各部の凝固時間の指標であるモジュラス(鋳造品体積/鋳造品の有効冷却表面積)を計算し、押し湯のモジュラスがこの値より大きくなるように押し湯寸法を決定した。押し湯寸法を決定した後、凝固シミュレーションにより押し湯位置の適正化や最終凝固位置や引け巣発生位置の確認を行い、押し湯寸法を見直した。最終的に、ピストンのクラウン側に大きな押し湯を1つけた鋳造方案Aと小さな押し湯を5個つけた鋳造方案Bを採用した。