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3-3. 最適鋳造方法の調査、実験結果

 

(1) HIP処理条件

 

候補材料SNCM材の人工欠陥を有する試験片を用いてHIP処理を実施した。表5に処理条件を示す。HIP処理前後の試験片外観の一例を写真1に示す。写真1(1)はHIP処理前の状態であり、写真1(2)はHIP処理後、写真1(3)はHIP処理に加えて調質化熱処理を実施した後の状態である。

残存空孔がわずかに認められたが、HIP処理により空孔のほとんどが消滅していた。試験片は大気中で溶接して製作したので空孔中には1気圧の空気が残存している。HIP処理により空孔は小さくなったが、内圧と処理圧力が平衡したため、微小な空孔として残存したと考えられる。すなわち、内圧の無い引け巣欠陥はHIP処理により除去可能であるが、内圧を有するガス欠陥を除去することは不可能であることを示している。

950℃HIP処理材と1000℃HIP処理材を比較すると1000℃HIP処理材の残存空孔が小さく、処理温度の効果が認められた。1000℃と1100℃では残存空孔の大きさに顕著な差はなかった。HIP処理材の機械的特性はHIP処理を行わなかった材料と比較しても同等以上であり、HIP処理温度1100℃においても機械的特性の変化は認められなかった。

これらの結果をもとに、HIP処理材の機械的特性と鋳造欠陥の除去のしやすさから判断して、HIP処理条件は温度1100℃、圧力98N/mm2、処理時間3Hに決定した。

 

(2) 溶解方法

 

SNCM439(AISI 4340)の平滑材の引張強度と0.2%耐力は大気溶解と真空溶解とで顕著な差は認められなかった。切欠き材の強度や疲労強度、衝撃値などは真空溶解の方が大気溶解より高くなった。これらの結果から、鋳造材の機械的特性は真空誘導溶解が良いと考えられる。

大気溶解材の強度特性を実験的に確認するため、SNCM439を大気溶解・大気鋳造した。溶解中、溶湯と大気との反応により溶湯表面に酸化物スラグが発生するとともに、多量のガスが発生した。鋳造品には多量の鋳造欠陥が発生していたため、強度評価試験は不可能であった。すなわち、大気溶解では溶湯表面を被覆するスラグや溶湯中に混入した酸素を脱酸する脱酸材が必要であり、またArガスバブリングなどによる溶湯中の脱ガス処理も必要になる。

前述の強度特性に及ぼす溶解方法の文献調査結果と大気溶解による実験結果をもとに、溶解プロセスとして真空誘導溶解を選定した。

 

 

 

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