SNCM439、630及びSCNCrM2の鋳造素材を製作し機械的特性を調査した。1100℃-98N/mm2-3HのHIP処理の後、焼き入れ-焼戻しの熱処理を実施した。焼き入れは900℃で実施し、焼戻しは強度を重視して低めの580℃で行った。比較のためSNCM630素材(鍛造材)にも同様の熱処理を実施し、機械的特性を調査した。鋳造素材の機械的特性を図3、4、5に示す。引張強度、0.2%耐力はSNCM630>SNCM439>SCNCrM2であり、伸び、絞り、衝撃値はSNCM630≒SNCM439<SCNCrM2であった。特にSNCM630鋳造材では要求値の約1.5倍の強度が得られた。今回の熱処理条件は強度を優先するため焼戻し温度を低くしたため伸びや衝撃値は低くなったが、SNCM630鋳造材の焼戻し温度は600℃前後が最適であると考えられる。
これら結果をもとに、熱処理性(焼き入れ性、焼戻し温度範囲の広さ)と材料強度から判断してSNCM630を鋳造素材として選定した。
3-2. 精密鋳造用中子、鋳型材の調査、実験結果
(1) 精密鋳造用中子の選定
セラミック中子の原料にはアルミナ(Al2O3)、ジルコン(ZrSiO4)、スピネル(MgO・Al2O3)、シリカ(SiO2)などが使用される。これらの原料にバインダーとしてエチルシリケート、コロイダルシリカ、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを配合し成形、焼成してセラミック中子とする。セラミック中子原料の融点と耐火度(適用限界温度)を表2に示す。表中の耐火度(SK)とは軟化温度を意味している。
セラミック中子原料としては融点、耐火度が高く、熱膨張率は小さい方が好ましく、中子原料としてはジルコンが適している。一方、中子の除去はブラストやウォータ・ジェットなどの機械的方法、あるいは化学的な溶融除去により行う。中子の除去、耐火度、熱膨張率の点からジルコンとシリカを混合した中子原料を選定した。
ジルコン-シリカ中子の物性値を表3に示す。シリカを混合しているので熱膨張率が低く、中子の除去を考慮して気孔率を比較的大きくしている。また、最大表面粗さは20μm以下であり、精密鋳造用中子として問題の無い値であった。
(2) 精密鋳造鋳型の選定
鋳型のフェイスコート材(高温にさらされる1〜3層)には、高温での安定性と金属溶湯との反応性を考慮してジルコンを選定した。4層以降のバックアップ層の鋳型原料は、強度確保と軽量化を考慮してハイアルミナ(アルミナとシリカの混合材)を選定した。初層スラリのフィラ材とスタッコ材の粒度分布を調査し、フィラ材は平滑な鋳造品表面を得るため、50μmアンダーの原料、スタッコ材は鋳造品表面粗さと鋳型通気度を両立させるため、80〜200μm(粒度分布のピーク:約100μm、AFS指数:約100)の原料を選定した。
選定した鋳型原料を用いて精密鋳造鋳型を試作し、鋳型初層の層間強度、表面粗さ、鋳型強度などの諸特性を調査した。試作鋳型の諸元を表4に示す。鋳型の生型強度及び焼成強度は、層数を7層から13層に増やすことにより20%程度上昇した。
層数を増やすことは荷重を受け持つ断面積の増加につながり、結果としてさらに耐荷重が増えた。一方、鋳型の通気度はバックアップ層の増加とともに低下した。低下の割合は室温では約25%、900℃で約15%であり、温度の上昇とともに少なくなっている。ガス欠陥防止や溶湯の鋳型内充填性の観点から通気度は高い方が望ましいが、ピストン用鋳型としては強度確保を優先して表4に示した層構成とした。
中子部の鋳造品表面粗さは15μm以下であり、鋳型接触面の鋳造品表面粗さは20μm以下であった。表面粗さという点では、中子、鋳型ともに精密鋳造ピストンに適用可能である。