3.2 ノルウエーによるもの3)
ノルウエーは、HLA(Helicopter Landing Area)の効果を評価する際に、被災船舶回りの船舶の対象海域における航行状況は、ポアソン分布で表現されるとの妥当な仮定により推定し、ヘリコプターがヘリコプター基地から被災船舶に行き、近くにHLA付属の旅客船がいれば、そのHLAを使用して救出作業をすること等を仮定して、ヘリコプター基地1ヶ所当たり1年間にヘリコプターにより救出される人命の期待値を求めている。この場合は、安全対策が直接的にリスクに与える影響が数式により求められるが、ヘリコプターがHLAを使用する場合のヘリコプターにより生起される事故による影響等は考慮されていない。
3.3 日本によるもの4)
当研究所では、現在、災害進展過程(事故シナリオと呼んでいる)をシミュレーションにて求め、得られた事故シナリオを使用して避難シミュレーションを行い、災害下における人命損失数を求める手法を開発した。船舶の設計に影響する安全対策の効果、また、避難性状に影響を与える手続き的な安全対策の効果は、これらのシミュレーションにより人命損失数の変化として表現される。
日本によるFSAの試適用として、本手法を用いて、火災災害時のスプリンクラーの有無によるリスクの違いを算出し、スプリンクラーの有効性を示した。
4. 今後のFSA研究
RCOの評価を行うためには、2章で指摘したように、事故統計等のデータが無い場合のリスク推定を可能とする手法がFSAを成功させる重要な要素である。
ノルウエーによるHLAの評価の場合のように、RCOが直接的にリスクに与える影響を数式により算出できる場合はまれと言わなければならない。また、英国が提案した基準影響関連図は、検討対象のRCOを義務付ける基準を想定した場合に、そのような基準からリスクに影響を及ぼす種々の過程の関連をモデル化し、図4によりリスクと直接関係する指標を出力するものである。その構成および定量化は専門家の判断に拠っているため、精度、恣意性等が問題になっており、暫定ガイドラインから削除すべき、あるいは他の用途に使用すべきであるとの意見が出ている。5)
したがって、これら以外の合理的なリスク推定方法が必要である。船舶技術研究所はリスクを求める過程において物理的過程のシミュレーションを行う手法を提案し、そのためのシステムを開発してきた。図5は、基準からリスクに影響を及ぼす直接的な要素への影響、それらの要素がリスクに直接影響を及ぼす物理的過程の関連を示している。したがって、図5は基準影響関連図と同様の意味を持つとともに、リスク算出のための手順を明示している。基準影響関連図はそれらの影響の評価を専門家意見のみを用いて数値化しているのに対し、図5では、RCOが船舶の事故発生、ないしは災害進展、避難に与える現実に生じる物理的な過程を明示している。すなわち、ハードウェアに分類される要素は、設計図面あるいは性能にRCOが反映され、それが、運動、破ロ、浸水、火災、避難等のシミュレーションにより解析され、事故の発生、および、人命損失数が推定される。同様に、ヒューマンファクターに分類される要素は、ヒューマンファクターのモデル化を通して同モデルを用いたシミュレーション(操船、火災、避難等のシミュレーション)により解析され、事故の発生、および、人命損失数が推定される。物理的過程のシミュレーションは基礎となる方程式が既に明らかであり、シミュレーションプログラムを作成することは比較的容易である。しかし、ヒューマンファクターをモデル化することは、今のところほとんどなされておらず、今後の研究が最も必要とされる分野である。この部分は、VRを用いたシミュレータ等により実現可能と思われる。