11.7 プロペラ起振力による損傷
1)船体振動には共振と強制の2つがあるが、適正設計の船体では共振を起こすことは殆どなく、例えばプロペラ直上の外板やタンク等の損傷の大部分は強制振動によって生する事が多い。
2)部材の固有振動数がプロペラ回転数 翼数(ブレードフリーケンシー)と合致すると共振を起こす。小型高速漁船ではプロペラ RPMは1,OOO以下、翼数も4以下が殆どであるから、固有振動数が4,000CPM以下 となると共振を起こす可能性が大きくなる。
参考までに、板厚4〜8mm、T.W.スペース0.5及び1.0m、縦肋骨スペース0.2、0.3及び0.5mの船底外板(四辺固定とする)の空中及び片面接水での固有振動数を計算したものを図-R-10に示す。板厚過小、スペース過大とならぬ限り共振しない事が判る。(骨材の計算は略)
3)固有振動数は四辺の固着条件で変わる。大凡の見当としては以下の様になる。
支持では固定の約1/2、片面接水では空中の約1/3
両面接水では片面の約2/3
4)一軸船には大きな船尾材(スケッグ)があるのが普通であるから、プロペラ位置での伴流分布が不均一となり、此の為翼が一回転する間に翼の発生する推力(揚力)が変動し起振力となる。又3翼では4翼よりも水平力が大きくなるから、シューピースにかかる舵の反力、及び旋回時の水抵抗力とも合わせ、船尾材の船体固着部には大きな繰返し曲げモーメントが働き、此の部の強度が不足すると疲労破壊を生ずる。異物衝突等によりプロペラ翼が曲、折損した場合には条件は更に厳しくなる。
5)ベアリングフォースによる損傷
3翼は4翼より水平力の変動が大きいから、軸及び軸受けに対する影響は4翼よりも厳しい。
3翼CPPでは軸受けの損傷が4翼より多いといわれるのも此の理由からであろう。
逆に4翼は3翼に比しトルク変動が大きいので軸のねじり振動に対する影響は3翼より大きい。従って主機のトルク変動成分の位相とプロペラのそれが一致しない様に、クランク軸とプロペラの取付け角に注意しなければならない。
6)強制振動による損傷は殆ど疲労破壊である。之を防ぐには以下の事が肝要である。
イ)プロペラと船体の間隙を極力大きくして起振力を小さくする
ロ)強度/剛性の連続性を保ち、ウイークポイントを作らない
ハ)応力集中部(ハードスポット)、及び過度の応力残留部を作らない
ニ)伴流分布が甚だしく不均一とならず、キャビテーションの起り難い船尾形状とする
ロ)ハ)については具体的には
a)外板、タンク壁は基準通りに必ず増厚する
b)過大なフレームスペースとしない(最大350mm程度)
c)骨材の端部固着は必ず肘板固着とし、スニップエンドは避ける。肘板のトゥ部はソフトにする。
d)要所に倒れ止めを設ける
e)スロット部にはカラープレート又はフィラープレートを付ける
f)船底、船側の隅肉溶接は連続とする
g)開口隅には極力大きなRを付ける
h)ダブリングプレートコーナーにはRを付ける
i)工作精度を守り、無理な取付け、目違いを避ける
j)工作欠陥(表面又は内部のノッチ、切傷、不良ビード、仮付けビード等)は必ず手直しする
k)強い部材と弱い部材の取合い部は特にソフト化に留意する
等に十分注意しなければならない。