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4.4.3 余盛止端の応力集中低減方法

 

余盛止端における応力集中を低減させる方法は、原則的には1]止端の丸みρを大きくするか、又は2]止端に圧縮残留応力を生じさせるような加工を施すかの二つである。鋼材の場合には、Fig.4.67に一例を示す64)ように、すみ肉溶接止端に各種の処理を施すことによって、疲労強度が著しく改善されることが知られている。

アルミニウム合金の場合、1]については余盛止端をディスク・サンダー等で望ましい形状に仕上げることが多いが、ティグ・ドレス処理(TIG dressing)65)による止端の再溶融方法*4.24もある。2]は小型工具等を用いるハンマ・ピーニング、又はショット等を用いるピーニングであり、火薬を使用する爆発(explosive)ピーニングもAl-Zn-Mg合金十字継手67)について行われている。また、継手近傍に局部的な加圧や加熱を施して溶接残留応力分布を変える方法68),69)もある。

いずれも、実験室的にはその効果が認められているのにも拘らず、余盛の仕上げ以外は規格等に採用されないのは、それが実用面で正確になされたかどうかのチェック方法64)と、一方では、小型試験片についてのデータが大半を占めるので、2]の場合は寸法効果的因子も場合によっては考慮する必要のあることなどが理由の一つと考える。したがって、2]に関する処理、特にピーニングを施す場合には、後述の各文献を比較すると整合性が多少欠ける点もある*4.25から、あらかじめ最適条件を求め、でき得れば疲労試験も行って、その効果を確認しておくことが必要である。

 

(1) すみ肉止端の研削71)

 

ここで述べる止端の研削は、板厚12mmの各種鋼材(降伏点250〜785N/mm2)を用いた十字継手、主に横方向の面外ガセット継手のすみ肉に関するもので、アルミニウム合金についての実施例ではない*4.26

 

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Fig.4.67 鋼継手におけるすみ肉溶接止端の改善効果64)

 

*4.24 5083合金板突合せ継手の余盛止端をレーザ処理した実験66)も行われている。

 

*4.25 例えば、文献70)は、本文中では省略したが、Al-Zn-Mg(7005相当)合金の非荷重伝達型すみ肉継手(面外ガセット、板厚9.5mm、幅160mm、ガセットは板厚7mmで長さ150mm)の軸荷重部分片振り3応力水準の疲労試験で、ハンマ・ピーニングは有効であったが、ショット・ピーニング並びにグリット・ブラスト(grit blast)は効果が認められなかった。一方、ロータリ・カッターによる切削は低応力範囲では効果があったが、ティグ・ドレス処理の影響は明らかでなかった。これらの処理条件は記載されているが、その処理条件が最適であったのか否かの検討は明らかでない。このようなことから、以上の各処理に関する本文のまとめ方としては、2nd Inter. Confer. on Al. Weld.(1982)以降における文献を重視した。

 

*4.26 アルミニウム合金継手の実施例は、4.4.1のディスク・サンダーによる止端(余盛)仕上げが後述の2]に相当するともいえるが、文献71)の銅材におけるように、母材側の肉厚減少まで言及したものはほとんどない。一例としては、板厚25mmの5083-O合金突合せ継手の止端をグラインダで半径5mm、深さ0.5〜1mmに研削すると、繰返し数N=106の片振り疲労強度が約30%向上したという報告72)がある。板厚4mmの5083-O合金ミグ半自動溶接突合せ継手の止端を丸みρ≒5mmとなるように、ペンシル形のグラインダで仕上げた場合、繰返し数N=107の片振り疲労強度σmax(107)が溶接のままよりも1.6倍(70MPa)に向上した報告73)もある。

なお、後述の2]を適用する際の砥石の直径は100mm程度、粒度は#60〜#120よりも細かいものが望ましい。

 

 

 

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