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鋼材の溶接継手では、止端における応力集中以外に、溶接することによって止端に最大深さ0.4mm程度に及ぶ小さなスラグ・イントルージョン(slag intrusion)を生じ、これが繰返し応力下で先在するき裂として作用をする71)。研削加工は、この両者を対象として止端半径の増加並びに、スラグ・イントルージョンの除去が目的で、以下の二つの方式が推奨されている*4.27

 

1] ロータリ・カッターによる切削

 

エヤー駆動式ストレート型工具(15,000〜20,000rpm)にロータリ・カッター(burr tool又はburr grinder)を取り付け、Fig.4.68(a)に示す要領で止端を切削する。工具の軸は母材に対して45゚に保持し、進行方向には45゚傾ける。切削深さは母材表面より0.8mm以上、その最大深さは2mm又は母材板厚の5%の、いずれか大きい方とする。止端は切削終了後、その面を研磨して滑らかにする。なお、切削深さ0.8mmは、スラグ・イントルージョンの最大深さ0.4mmに対して余裕をみたものである。

 

2] ディスク・グラインダによる研削

 

電動式もしくはエヤー駆動式のディスク・グラインダに、直径100mm(7,500rpm)又は175mm(4,000rpm)で粒度#35〜#45の砥石を取り付け、Fig.4.68(b)に示す要領で研削する。砥石の傾斜角は母材に対して30゚〜45゚であり、研削量は1]と全く同じである。

各継手の溶接のままと研削後の疲労強度(主として応力比R=0、繰返し数N=106)を比較すると、研削によって30%以上の向上が見出され、しかも、1]のロータリ・カッターによる研削の方が優れていた*4.28。2]のディスク・グラインダ方式は、1]よりも作業性がよく、溶接線1m当たりの経費も1]の約1/2.4と安価になる利点を持つが、一方では、作業者が止端を過度に削除したり、また、工具の取扱いが厄介で、かつ、継手によっては工具の大きさから制限を受ける等の欠点がある。

 

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Fig.4.68 すみ肉止端の研削方法71)

 

なお、研削後の応力集中率についての検討は行われていない。Photo.4.2は研削後の止端形状の例であり、研削深さは約0.8mm、止端半径は(a)の場合が8mm程度、(b)が6mm前後と推定される。

 

(2) ティグ・ドレス処理65),74)

 

溶接後の余盛止端をティグ溶接機を用いて再溶融し、止端の丸みを大きくする処理である。止端半径2〜12mm程度のものが得られ、一例をPhoto.4.3に示す。

Table4.21は、板厚8.8mmの5083-H321合金突合せ継手並びに板厚6.1mmの主板と8.8mmの当て板からなる同合金両面当て板前面すみ肉継手について、各止端のティグ・ドレス処理*4.29の有無が疲労寿命に及ぼす影響を4応力水準で比較したものである。処理した場合は、止端半径がばらつくためか疲労寿命のばらつき(標準偏差)も大きいが、平均値で突合せ継手が1.9〜3.3倍、すみ肉継手では2.8〜5.3倍と向上している。

Fig.4.69に示すS-N線図65)は、平均応力σm=13.5MPa(4kN)における両面当て板前面すみ肉継手の同様な比較であり、ティグ・ドレス処理の効果が明らかに見出される。

 

*4.27 母材の板厚が比較的薄い場合には、研削による板厚減少が間題となるので、この文献では板厚10mm程度以上を適用の対象とし、それ以下の板厚にはティグ(ドレス処理)又はプラズマによる止端再溶融法の採用を勧めている。

*4.28 1]及び2]による計26ロットの継手についての応力比R=0のS-N線(N=105〜4×106)は下記の各式で表され、ここに、?刄ミは応力範囲(N/mm2)である。

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*4.29 この場合の処理は、ティグのトーチ速度が360mm/minである。

 

 

 

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