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しかし、これらの改善には、土地の広さと投資に見合う建造船や修繕船の数が必要であるものの、現在の需要からは、造船事業所の数が多過ぎる。今後生き残り、発展するためには、競争力の在る効率的なレイアウトを持った造船事業所が少数精鋭の形で存続することが望まれる。(西日本地区では修繕だけで年間300隻を受注している造船事業所がある。)

また、職員が多すぎるため、現場工との比率が1:5〜6程度になり、多様な新造船の設計や、設計によるコストダウンなどに取り組む設計専業者の存在が必要になる。職員の削減には、事務や経営管理にコンピュータの導入が必要であり、設計専業者を有効に活用するには、CAD、CAMの導入による設計の効率化が求められる。

建造・修繕の造船事業所として残るものの他は、協力会社として、残存する造船事業所のアウトソーシングに耐えられる事業の構築が望ましい。(これが作業能率の向上にも寄与する。)

機関整備・電装関連事業者との提携・協力も検討対象として取り上げたが、機関や航海計器ではメーカーとの結びつきが強く、現状では有効な提携策は見あたらない。しかし、事業者に対するアンケートでは、事業者同士あるいは異業種事業者との交流の場を求める意見が多い。このため、今回提案した技術情報支援センターに事業者同士の懇談・情報交換の場を設けて、今後の課題解決に役立てることが期待される。

この他、特に修繕業の体質を根本的に建て直し高度化して、発展途上国と差別化するために船舶のフリート・サポート化を提案した。造船事業所が主体となってこれを先行して技術開発することは、船舶のカルテ作りやモニタリング技術により船舶を一つのプラントとして管理を請け負うこととなり、将来の安定した高度な新造・修繕業を担うものとなる。この技術は陸上の施設にも応用でき、今後事業の裾野を拡げるものとして開発に期待したい。

 

5-5 関東地区の新規需要について

 

関東地区は、東京湾という巨大な平水面を有し、これが日本を代表する港湾を発展させ、近代的臨海工業地帯を形成してきた。現在、産業構造の軽薄短小化により重化学工業の縮小は免れないが、3次産業化する経済に、エネルギーや特殊原料の供給が求められている。船舶はまさにその物流の基幹を担っており、必要欠くべからざる手段になっている。

関東地区の造船業は、第2章の現状(2-1-5)において見た通り、物流の基幹を担う船と異なり、その周辺の支援船(タグボートや警備艇・消防艇等)に依存している。しかし、これは望んでこのようになったというより、西日本地区の造船事業所との競争に敗れたためと思われる。既に売り上げからは、厳しい状況に追い込まれていることが窺える。

このため、今後の向かうべき道は2つに分岐する。一つは、5-4で述べた競争力を付ける努力である。もう一つは、関東地区の港湾を中心としたこれまでの造船技術(舶用技術を含め)を応用できる付加価値の高い需要を掘り起こす努力である。まさに、次世代の造船・舶用工業の在り方はこの需要開拓・物流への提案力が問われる。(5-2(3))

陸上交通の異常な麻痺状況(首都高速の渋滞時間待ちで何兆円かの損失を生じるという)、異常とも言える通勤電車やバスの混雑、地価の変動により崩壊寸前の首都圏住民の生活、これらに対して有効な解決策を提案できない海運・造船業界にも問題がある。

 

 

 

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