当センターは、会員事業者の経営・技術の相談に限らず、会員同士の連絡、会員の共同プロジェクトの進行支援、異業種事業者との情報交換の場、スペシャリストの講演や技術講習会の場等にも活用でき、これらの事業は、中小造船・舶用工業の基盤を大きく支えるものとして期待できる。なお、既に平成11年度中に当センターの設立準備委員会を組織し、具体的な組織づくりの検討に取り組んでいることを付け加えておく。
5-2 造船の技術史的視点
先に2-1-1において造船の歴史的視点からの流れを見てきた。このように歴史を溯ってこれまでのわが国造船・舶用工業の流れを見ると、その将来展望が見えてくる。その課題を整理すると以下のようになる。
(1) 生産性の向上の努力
現在の高い人件費をいかに有効に活用し、または省力化し、現状のような高い人件費でも高効率的な作業を造船業に取り込むかということが重要な検討事項である。
(2) 情報化の流れに乗り受注から設計・建造、保守まで一貫した造船業の確立
これまで、造船業は受注産業として、とかく受け身の対応をしてきたため、船舶と海洋の将来の姿への提案や、船舶の運航上の問題点を設計へ反映する様な取り組みが遅れがちであった。これからは、造船の技術とエネルギーの転換革命が一体になって巨大なタンカーマーケットを誕生させたような川上への視点や、ISMによる運航体制の確立まで視野に入れた船舶の設計技術への取り組みが必要とされる。
(3) 高度な物流や海洋産業への提案力の向上
東南アジアや中国・韓国の追い上げを見ると、安い人件費がベースにあり、最新の設備の導入を行うことができれば、今後は多少の技術差を持っていても、その差を埋めることは大きな問題とはならない。既に日本の輸出船の場合、コスト削減による競争力を得るため、舶用機器の仕様などを最低限にし、運航者に使い易いシステムを提案する余裕がない状態であると言われる。
これに対し、韓国の船舶はウォン安や人件費の安さ、更に高効率の設備の導入や規制緩和を武器に、舶用機器の購入価格に余裕があり運航者に有利なシステムを提案できる。
このため、わが国の船と韓国の船とを比較した場合、運航会社のわが国の船に対する評価は低い言われている。人件費などのハンディを機器の仕様を削る事で解決することは、利益を上げるためにやむを得ない現実であっても、今後由々しき問題を生じるものとなる。このため、単なるコスト競争は造船・舶用工業の将来に禍根を残し、また低収益では事業者にとっても、技術の発展にとっても、泥沼に嵌まり込む恐れがある。
今後、わが国造船・舶用工業の目指すべき道は、ソフトを含んだ技術、トータルな船舶管理技術《荷主の物流計画に絡んだ船舶の運航採算を基礎に、設計建造は基より運航時の安全で効率の高い輸送管理と保守管理まで》を開発し、これを提案することで独自の境地を拓くことであろう。
船舶のみを建造するコストでは不利であっても、荷主にトータルで効率の良い提案が示せれば、船舶の建造のみでなくその後10〜20年のメンテナンスまで、長期の収益を望める有望な市場が生まれることから、今後考慮していくべき視点と考える。