日本財団 図書館


3] 資金安全性

 

自己資本比率の高さが資金安全度を最も端的に示すが、9年度5.7%が10年度には2.6%と1/2以下に下がった。11年度上半期(3社)の数値では、△19.3%とマイナスに転落している。自己資本比率の低下は損失発生によるものだが、収益力の低下は資金面にも深刻な影を落としている。

資金不足を補うために、当然借入金依存度は高まるが、10年度には78.0%に達しており、既に限度を超えていると言ってよい。資金面にゆとりがないと、前向きな対策や知恵も浮かんでこないことから、収益力を回復するためには荒療治を必要とするところまできている。

 

7) 対象地区における造船事業所の特色

 

以上のように、5項目にわたって横須賀、三崎、横浜地区の現状を分析した。湾内でも倒産などが既に発生しているが、中小造船業全体から見た場合、その影響は全くないと言える。それは、瀬戸内地区から見れば全くの競争圏外であり、関心を持って結末を見ようとしているところがないことからも明らかである。東京湾内でも、河川に面した造船事業所などかなり多くの造船事業所が存在するが、競争力があるといえる造船事業所は少ない。

以下、横須賀、三崎、横浜地区における造船事業所の特色を整理する。

 

1] 牽引車企業の不在

 

今回調査した3地区の大きな特色として、3地区の業界発展、活性化のうえで牽引車の役割を果たす強力な造船事業所が存在しないということがあげられる。別の言い方をすれば、少なくとも質量ともにトップに立ち、他社が目標にするような造船事業所がないということであり、瀬戸内地区との大きい違いがそこにある。尾道地区、今治地区、佐伯臼杵地区のどれを見ても、ある1社が抜け出し、それを追って他社が頑張り、追い抜くという競争を続けており、その競争は現在でも続いている。

一社一社が独立しているのはよいが、似たような考え方、即ちお互いのシェアを荒らさず、ただ現状を維持することにのみ腐心するのでは、需要の絶対量が減る中では、共倒れになるのは避けられない。すなわち、競争意識の徹底化による相互刺激と全体のレベルの向上を目指すことが重要である。

 

2] 他地域との競争力強化の課題

 

東京湾内には、他地区には見られない需要がある。引き船もその一つであり、官公庁船も多い。しかし、マーケットは小さく、コストが安い瀬戸内地区の造船事業所は引き船、小型客船に一部の造船事業所が関心を寄せるだけで、内航船造船事業所の多くはほとんど関心を持たない。修繕船での営業は活発に行われているが、少なくとも500総トン以上に限られる。

名古屋、大阪、神戸のいずれの地区を見ても、中小造船事業所で競争力を持っている(他地区で名前が出る)のは関西地区の3社に限られる。これは、地域内の需要にしがみついていたために力を無くしていったためである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION