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高度成長自体は、敗戦国や新興工業国が復興、キャッチアップの過程で経験する一時的な現象であり、その後の成長の鈍化はむしろ経済の安定と成熟の表れである。わが国は、石油危機の衝撃を乗り越えて国際競争力を強め、鉄鋼・乗用車・半導体などの分野で世界をリードしてきた。

このような状況の中、急速な円高の進行により1985年には一人当たり国内総生産(GDP)で米国に追いつき、国際貿易の収支で大幅な黒字となって、世界最大の債権国となったことが他の先進国から批判されるに至った。(図2-1-5)

そして、輸出が貿易摩擦を引き起こし、内外価格差(=国内高コスト)が顕著になって、対外直接投資が増加したことにより、国内の工業空洞化が生じる懸念が出てきた。こうした国際的な経済に対応した経済構造転換の必要性が生じてきていた。

しかしながら、80年代からのバブル経済によって成長率が嵩上げされため、構造転換が遅れ、90年代はバブル経済の破綻により経済停滞の時代となった。このような状況を打破するため、政府は120兆円にのぼる財政出動を行い、それにより歴史的ともいえる超低金利政策が現在も続いている。

しかし、これだけの財政出動を行いながら、一時的な効果しか上がらず、しばらくすると失速するという、いわゆるゴー・アンド・ストップの繰り返しになっている。例えて言えば、明らかになすべき手術が行われず、薬を止めると又傷が疼くような状態である。これは、今後の政策として、需要補給だけではなく、金融システム再建を直接指向する必要性を示している。

しかし、『失われた90年代』と言われる現象は、バブルの所為だけではなく、以下のような要因が積み重なって表れたものであるといえよう。

1]過去のマクロ政策の失敗

2]既に始まっていた21世紀に対応した構造改革の遅れ

3]少子高齢化への不安を払拭できず、新たな枠組みを作りきれない

今後、2010〜25年にはいわゆる団塊の世代が集中的に定年を迎えるために労働供給力が減退し、この世代が年金保険を支払う側から受給する側へ回り、そのうえ、団塊世代の娘達が母親となる年齢になるため、一時的に労働力が減少することになる。これは、財政を再建して本格的な高齢化社会の訪れに備えるべき時期に、人口の変動の波頭が重なることになる。

つまりは、眼前に非常に重い課題が突きつけられていることになるが、これを解決する活路は生産性の向上しかない。

生産性の向上に今希望の光が在る。これが情報技術の本格化、ネットワーク経済の創出によって従来以上に生産性が向上する可能性が生まれている。

技術革新が進展し、それがスムーズに受け入れられるためには、先端部門で活発に新技術が創造されると同時に、これによって消滅する部門では大規模な整理・統合が進められ、両者の間で資源・労働力が速やかに移動しなければならない。この社会的流動性・柔軟性の確保が、技術革新の成功と将来展望の明るさに寄与する。情報化、グローバル化、人口の高齢化は止めることのできないもので、我々にできることは、変化の先頭を目指すことである。

環境問題については、技術の活用と生産から消費に至る経済活動を有機的に結合し、システム的なイノベーションを目指すことである。

少子高齢化は先進国共通の課題であるが、その中でもわが国が世界の先端を走っており、先駆的技術とシステムを開発できれば新しいモデルを示す大きな機会が生まれる。

このように問題を逆に眺めると、新たな挑戦の課題としてわが国の21世紀における可能性を示唆しているとも捉えられる。

生産性の向上(情報化)に独り中小造船・舶用工業が後塵を拝することは許されない。都市型の造船事業所の宿命として、若い人達に海洋の魅力を与えられない事業は存在そのものが否定されることになる。情報化技術を如何に業界に取り込むかは、大きな課題として我々に突きつけられている。

ここに、造船・舶用工業の業界が考慮すべき課題が有ると考える。

 

 

 

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