しかし、地域別に見ると山間部、沿岸部でともに弁膜症による初発欝血性心不全が高齢で発症していた。その原因としては、高齢になると弁膜症の合併頻度が増加することが既に報告されているように(11)、山間部、沿岸部の女性の弁膜症群が特に高齢で欝血性心不全を発症したことがあげられる。従って山間部、沿岸部の女性が高齢になるまで他疾患による欝血性心不全を発症しなかったために、その結果高齢で増加する弁膜症によって欝血性心不全を発症したため、同地域で初発欝血性心不全患者の基礎心疾患として弁膜症が高頻度であったと考えられる。
初発欝血性心不全患者の基礎心疾患別の年齢として、その他の特徴として、高血圧性心疾患による初発欝血性心不全時の年齢が、全体でも、また各地域別に見ても、男性の発症年令が女性に比して極めて低い傾向が認められた。このことは極めて特徴的な結果であり、男性においてより早期から高血圧に対しての治療的介入が必要である可能性を示唆している。高血圧性心疾患は欝血性心不全の原因疾患としては予後が虚血性心疾患、拡張型心筋症、リューマチ性弁膜症等に比べて良好であること(7)が既に報告されているが、一つには降圧療法という極めて有効な治療法があること(12)と、今回の結果が示すように、虚血性心疾患や弁膜症に比べて発症年齢が低いこも重要な要素と考えられる。
初発欝血性心不全患者の基礎心疾患としての虚血性心疾患については、年齢と性別から見ると他の疾患に比べていずれの地域でも発症年齢差が少ないことが一つの特徴であり、また年齢と性という点では、地域別の違いは見いだせなかった。陳旧性心筋梗塞に伴う初発欝血性心不全の頻度は、山間部、沿岸部、都市部ではいずれも25%前後で差はなかったが、急性心筋梗塞に伴うものは70-80%をいずれの地域でも占めており最も高率であった。虚血性心疾患の冠動脈病変枝数に関してははいずれの地域でも差はなかったが、これは糖尿病が比較的沿岸部に高頻度であったが、高脂血症、高血圧等の冠危険因子と年齢に差が無かったことが関与していると考えられる。さらに陳旧性心筋梗塞以上に急性心筋梗塞による初発欝血性心不全が多いことは、陳旧性心筋梗塞患者の多くが、急性期に既に心不全を生じていることで初発欝血性心不全から除外されていること、また急性期を過ぎて一旦安定すると、心不全を生じにくいこと、多くの陳旧性心筋梗塞患者がいずれの地域でもかなり高率に心不全の予防的治療を受けていることが原因と考えられた。
また、心筋症による初発欝血性心不全時の年齢に関しては、心筋症が比較的若年で発症するため、これによる初発欝血性心不全も若年発症が多いと考えられるが、今検討では山間部、沿岸部の心筋症症例数が少なく特徴的な傾向は認められなかった。