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IV. 考察

アレルギー疾患への関心は非常に高く、またアレルギー疾患の頻度も増加しているといわれている。わが国では10人に1人は花粉症に罹患しているといわれ、その中でもスギ花粉症が最も大きな割合を占めている(1、2)。しかし、スギ花粉の曝露量も地域や年次によって異なるため、わが国における正確な有病率は報告されていない状況である。医療機関を対象とした全国調査が報告されている(3)が、軽症例が調査医療機関に来院しない可能性、診療科が複数科であったりする場合、また特定の医療機関を受診する者という偏りの問題があげられる。その点、学校、職域や地域住民を対象とした疫学調査(4、5、6)は有利であるが、一部の地域に限られたものが多く、診断の基準も質問票を用いた問診項目のみのものから臨床検査を加えたものまでさまざまであり比較ができない問題点がある。本研究では、限られた年齢層の必ずしもその府県を代表する集団ではないが、10府県60市町村の協力を得て同じ方法で同じ質問票を用いた疫学調査を行い、かぜをひいていないのに出現する症状(鼻・眼中心)の頻度や分布を疫学的に観察し、スギ花粉症の有病率(地域差、性差、年齢分布)を明らかにした。また、症例対照研究を用いてスギ花粉症の危険因子を定量的に分析した。

本研究の特徴の一つは、市町村で行われる3歳児健康診査の受診者を対象としたことである。3歳児健康診査の受診率は84.6%と全国的に高く(本調査中最も低い府県で76%であった)、さらに協力が得られた割合は受診者の96.4%にのぼり、従来の研究の持つ偏り(セレクションバイアス)の少ない疫学調査で代表性が確保された研究といえる。つまり地域住民にどの頻度でスギ花粉症がいるかを把握するには適した方法といえる。なぜなら、有病率を調査する際、低い回収率では本調査に関心のある人、健康に熱心な人が対象となり事実と異なる結果が得られるからである。

また、地域住民を対象としていることから、医療機関を受診しない軽症者や、他科を受診する者もとらえることができる反面、診断が質問票による問診のみからなので、客観性が乏しいことが指摘される。しかし、対象者全員(男女約8000人)に対して臨床検査を行うことは同意を得たり、また費用の点からも現実的ではなく、本調査は問診票のみから、一定の診断基準を設定し判断した。その結果として鼻アレルギー以外の疾患や、スギ以外の抗原による鼻炎が含まれる可能性を考慮しなければならない。質問項目に「花粉症といわれたことがありますか」という項目をもうけ、本研究に用いたスギ花粉症の診断定義の感度と特異度を求めてみた結果、感度は母49.0%、父49.0%、特異度は母97.0%、父97.7%であった。しかし、これらの情報も、正確に「誰にいわれたか」や「スギ花粉症」と特定していない点から、どの程度正確かは客観的に示し難い。

 

 

 

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