D. 文化同一性について
文化同一性とは自らの起源の社会、民族、人種、国籍などの集団の一員であるという信念を保持していることである。日系ブラジル人自らが自分のことをブラジル人、あるいはブラジル人であってかつ日本人と考えることはあっても、決して日本人と思うことはない(表5)。生まれ育った文化の中で文化同一性は発達してくるのであるから6割近くがブラジル人と答えているのは当然のことといえよう。ただ子供に伝える文化や自分あるいは子供の結婚という将来の話となると、母国と日本が混在するようになる。
またすでに国籍はもっているのだが、もしもてるとしたら、どちらがいいか、あるいは住みたい国はどちらがいいかという質問に対して、日系人は安全であり経済的にも発展している日本より母国を選択している。将来的に永住化が進むとしても母国の文化同一性は当分の間は維持されると考えられる。彼らの父母か祖父母が日本人であっても、彼らはブラジルで教育を受け、母国の生活様式、習慣、宗教を身につけ、考え方や行動様式も日本人とは異なっている。
われわれの研究の出発点は、異文化受容と文化同一性の2要素がある程度独立しながらも、相互作用するなかで、文化受容の過程が進行するという仮説であった。今回の調査で、現時点での在日日系ブラジル人の文化受容の一般的なありようとして、なるほど表面的には、彼らのあいだに日本文化に同化した行動様式(言葉も含めて)はかなり浸透しているものの、より深層ではブラジル人としての文化同一性を強く保持していると推測された。
E. 日系人としての意識について
一般的に、日系人は外国人の中でも特殊な位置を占めているといわれている。その特殊性は以下に述べるとおりであり、それらが日系人の内面にもいろいろな形で影響を与えていると思われる。
第1に風貌は日本人に類似しているが、性格や行動パターンは日本人と異なっている。第2に出稼ぎが目的の労働者であり、自分自身の選択で母国に自由に戻ることができる。第3に他の外国人と比較して、就労ビザや健康保険への加入などが優遇されている。第4に多少なりとも日本についての知識やイメージをもって入国しており、先祖の故郷なので安心感をもっている。第5に母国でも日本でもともに異邦人的側面をもつ。第6に大学出のエリートから小学校出まで、教育や学歴においてかなりの開きがある。