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健康保険については、1994年の調査と比較すると国民健康保険の割合が高くなっている。このことは前回の調査が企業を中心に行われたため、社会保険の取得率が高かったのと、不況により社会保険を取得しにくくなったことの二つが考えられる。しかし、保険を取得していない人も21.2%にみられており、わが国の外国人労働者のなかでは恵まれているとされる日系人においても、医療が十分に受けられない立場にあるものがかなりいることがわかる。

 

B. SRQ-20得点について

SRQ-20のcut-off point の8点を越えた者は151名中15名(9.9%)であった。この結果は、1997年に筆者らが同地域で行った調査8)での、高得点者(Probable case)の割合である17.8%と比べるとかなり低くなった。この理由として、文化摩擦がピークになる時期をかなりの対象者が、2年近くの経過でやり過ごすことができた可能性や、異文化接触において精神障害をきたしやすい危険因子として知られる独居・独身者3)4)の占める割合が前回の調査に比べて減ったことなどが関係している可能性があるが詳しいデータの分析は今後の課題としたい。また、未発表のデータながら、宮坂らがブラジルで日系人社会を対象にして行った調査では、SRQ-20 の高得点者(probable case)の割合は3.2%と今回の調査の結果と比べるとかなり低かった。来日後の文化摩擦が精神障害の発生に大きく寄与するためとも思われるが、出稼ぎする日系人は母国に留まる日系人と比較すると、社会的、経済的に、より不利な立場にあることが知られており、このSRQ-20 得点の格差の理由についても今後の研究が待たれる。

 

C. 異文化受容について

異文化適応の過程は文化受容と文化同一性の相互関係によってあらわすことができる。文化受容とは個人が異文化のシステムにうまく適応できるよう、接触の度合を調節していく過程である。J.W.Berry5)らによると、異文化の集団との関係がうまく保持され、文化同一性も保持されている状態を「統合」、異文化の集団との関係が希薄になり文化同一性が保たれている状態を「離脱」、異文化の集団との関係が保たれ文化同一性が希薄になった状態を「同化」と呼び、異文化との関係も文化同一性もともに希薄になっている状態を「境界化」と呼んでいる。

異文化受容の過程は、食事、服装などの日常的な生活様式、挨拶、言葉、人間関係、宗教などによってみることができる。ここでは日系人が日本の生活様式や文化をいかに取り入れているかが問題になる。挨拶や料理といった表面的、行動的部分では異文化受容はかなり進みつつあり、かなり内面的な異文化受容を必要とする日本人との友達づくりにも成功している人が半数にのぼった。しかし、ブラジル人だけとの交友の人も47%いて、私生活の場では日本人と没交渉の者も多い(表3)。他の文化との出会いを期待する割合が大きいことは、それだけ種々の文化の受け入れに対して柔軟性をもっていることであり、このことはもともと父母や祖父母の時代に他の文化を受け入れてきていることと関係があるように思われる。

 

 

 

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