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b. 高齢者のウオンツ分析について

それぞれのカードは“in vivo”なデータとしてコード化せずに分析をつづけていくことが今回の分析の特徴であったが、in vivoなデータでその関連性を見ながら、データに忠実に洞察する作業は、コード化するよりもある意味で緻密なカードごとの関連づけを要求され、深く洞察する結果になったと思われる。

最終的には、結果で示したカテゴリー名だけはコード化、概念化した情報として提示したが、それ以下の細かいカテゴリーはあえてコード化を行わない。むしろ、系図の房(まとまり)を面として捉えて理解したり対策をこうじるように用いるほうが現実的で利用価値が高いと思われるからである。対応策は必ずしもカテゴリーに1対1対応である必要はなく、例えば情報への対策は広く多くのカテゴリーに影響を及ぼすものとなるであろう。冒頭に述べたように、ウオンツを叶えること、問題を解決するのは最終的にはより上位の目標を達成するための戦略である。ツリーの下の細かい問題を解決することに最終目的はなく、最終的にはより上位つまり「高齢者が安心して生活できる」ことが叶えられなくてはならない。そういう意味で、ツリーの最下層の問題のいくつか、あるいはほとんどが個別に対応されなくても、より上位のウオンツが叶えられればそれでいいのである。つまり、ツリーの下位に行けば行くほど、それは1手段に過ぎないということなのである。

当事者ウオンツ系図と一般住民・専門家ウオンツ系図のギャップの結果を考察する。当事者ウオンツ系図にあって、一般住民・専門家ウオンツ系図になかったものを眺めてみると、比較的自立した高齢者がさらに社会参加し自立していくための手段として、現在抱えている問題があげられている。情報の提供の仕方については、調査対象となった町だけではなく一般的に言えることとして捉えることができるが、その他はこの町に特異的な問題といえる。地域にあった支援対策が促されているが、これらのウオンツに対する対策をこうじることも、地域の実状にあった対策につながるといえる。そういう意味では、本調査方法によって、町に特異的なウオンツ抽出ができたことを裏付けているといえよう。

一方、一般住民・専門家ウオンツ系図にあって、当事者ウオンツ系図になかったものを眺めてみると、将来を予測した危険回避、予防的側面であったり、行政的な対応策などがあげられている。これらも、高齢者の生活を守る手段として重要なことであり、当然のことながら、専門的立場から高齢者を支える視点も重要といえる。

今回の調査では、介護保険制度で提唱しているサービスが目的とするコンセプトは網羅していた。加えて、対象となった自治体に特異的な問題、特に当事者が抱えている日常の問題をも抽出しえた。今回の調査で、A村との比較からも考察されたように、高齢者のウオンツを叶えるためには、地域の人づくりも含めた地域の環境、町づくりが、高齢者や障害者本位に考えられることが重要で、自立したい高齢者のための自立を促す戦略が求められていることが明らかになった。それに対して住民も対応策を考えており、コミュニティーの重要性も感じていることがわかる。

車社会は高齢者から自分で歩いて移動してまかなえる地域社会を奪いつつある。自立した高齢者を増やし、自立した高齢社会を作るためには、足で歩ける範囲でなりたつコミュニティーづくりが実現されるか、あるいは車社会に高齢者を順応させるために"高齢者にとっても使える足の確保"が必要とされている。また、介護が必要な高齢者にとっては、介護者が負担を感じない社会の実現が望ましいことが分かる。家族介護から地域介護への変換がうまくいくかどうかはこれからもモニタリングする必要があり、現段階で介護保険制度の良し悪しは推測できるものではない。何かしらの疾病や障害を持つ、介護が必要な高齢者の問題を考えるとき、狭い意味での医学や福祉という偏った専門分野から眺めることは、時に本来の目的を見失うことがあり、包括的で目的意識を持ったアブローチが必要だということが今回の調査でも実証されたといえよう。これからの地域での保健・医療・福祉体制はコミュニティーづくりを基盤とした考え方がますます求められている。

 

 

 

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