ただ男性は行き場がなく、車で数十分かかるパチンコ屋まで行って、パチンコにふける高齢者も多いという。1次産業が主体の頃は高齢男性にも役割があったが、仕事を引退して、家庭での明確な仕事や役割をなくしたときが自立性の低下につながる。そんな中で移動の手段である自家用車の運転ができることは家庭での大きな役割となるが、脳卒中や他の障害で運転ができなくなると、移動の手段も失い、役割も失い、高齢者の妻は運転できないことが多く、生活が限定されてしまう。「こんな身体になって泣く泣く免許証を捨てた」と本当に泣きながら語る男性もおり、この地域では移動手段を持てるかどうかは非常に重要なことなのである。
農作物を作る高齢者の声には、百石町同様それを売って少しでも生活に役立てたいというウオンツがあった。そして物を売ったり買ったり、生活を豊かにする中心街が存在しないことに問題を感じている住民が多い。保健・福祉センター、診療所ができてもその周囲に"街"機能がないことに不満を感じる声もあり、通院が大きな目的の方でさえ、通院とともに買い物ができて自分や家族も他の用事が足せることを望んでいる。"街"機能の中に保健・医療・福祉の充実が共存してこそ、豊かな生活という目的を達することができる。
他のカテゴリーについては、地域の隔たりなく共有できるものだったが、対応策は環境や習慣にあったアプローチが望ましく、事業の選択や手段は異なるものが提案された。
以上を踏まえて、データ分析的にはウオンツについてのデータは百石町のウオンツ調査で飽和されているものと考えられた。
4 考察
a. 方法論について
プロセスを進めていく中で、調査対象者の属性が増えていき、また属性では判断できない個々人の多様性も増していく中でデータは飽和化していった。特にPRA はopen-ended question、semi-structured interviewなどの手法と比べて、ブレインストーミングする材料が視覚的にカードで捉えられるので、より早く情報を得る手段として優れていることを実感した。はじめはカードへの批判や同意で話が始まり、話しているうちに新たな考えや文脈が抽出できる。今回のようにカード(データ)が揃うまでは個別インタビューで、カードがある程度そろったらPRAは情報収集のためにまさにRapidに、しかも深く情報を収集するための糸口として有効である。
これらのプロセスのあとに、系図に対して対応策を高齢者、専門家、行政執行者から得たが、その中で系図にデータの漏れがないことを再度確認し、データが飽和していることを保証した。
また得られたCounter measureはより具体的で、高齢者自身と家族、行政、地域という大きく分けて3者のだれが解決すべきかという点まで、参加者が洞察し意見を述べた。これが、自治体の行政施策に乗れるかは、財政の問題、制度の問題など考慮すべき点はあるにしても、具体性が高く、住民参加で導き出した解決策として定着されることを期待したい。実際に、病院バスの巡回経路の増加、増便がほぼ確定したこと、町内巡回バスの構想が浮上したこと、新しく建設される福祉プラザに系図のコンセプトが活用される予定であることなどは、知らず知らずのうちにスタッフ、行政、住民がParticipatory Learning Apprasal(PLA)をしていたことの現れである。住民参加で行ったこれらのウオンツの分析プロセスは問題解決、ウオンツを捉える手法として有効であったといえる。