(4)-2] 協調と介護負担の軽減(系図H):「家族と楽しく暮らせる」
「家族と楽しく暮らせる」というウオンツの手段カードとして、「介護者(家族)と被介護者(高齢者)が互いに協調関係にある」「被介護者(高齢者)の状態が安定している」「介護者(家族)も自分のQOLを大切にできる」「家族の一人が介護を抱え込まない」があげられた。
介護を受ける高齢者は通常一方的に世話を受ける立場にあり、負い目を感じている場合が多い。そのような一方的受身状態でよい関係を維持するのは容易なことではない。それまでの生活史においてどのような関係にあったか、介護者と被介護者の続柄がどうであるかが大きく影響を与えるが、介護されることになった現時点での被介護者の振る舞いもまた両者の関係に影響を及ぼすようである。「うちのおじいさんは介護を受けるときに協力してくれるから、多少は楽ですよ。」と、被介護者が介護者の負担を軽減するように少し協力してくれるだけで介護者は介護される側と介護する側との協調関係を意識できるようである。それは被介護者の表情や態度からも読み取れる。心地よいときには笑顔で表現してくれるだけでも介護者は支えられるのである。介護側の協調は、自分が負担を感じていないこと、負担を感じないように続けていくことを被介護者に感じさせることで表現される。つまり「○○さんの結婚式があるから、少しショートステイで我慢してちょうだい。私も楽しんでくるから」というような言葉が、介護される者の気持ちを和らげてくれることもあるようだ。
被介護者自体の状態がどうであるかが、介護負担にも影響を与えるし、介護される側の余裕と関係してくる。そこで高齢者はなるべく自分の状態がよくなるように、また悪くならないように努めることになる。
高齢者は介護されている場合も介護されていない場合もよく家族を観察している。「最近、息子たちも忙しいようだし、また春になれば農作業が忙しくなるからその前に検査をすませておきたい。」とか、「おかあさん(嫁さん)も忙しくて、車で病院に連れて来てくれるようにお願いしずらい」というように気を使っているのである。また、「今まで、次男から栄養剤を買ってもらっていたけど、嫁が買ってあげないように見えて悪く思われるから『もう栄養剤はいらない。』って次男に話したんです。あれはよかったんだけど」というように、他の家族との関係の中で介護者が悪く思われないように協力する態度も密かにやってのけているのである。このような洞察を通しながら、高齢者は介護者が望むサービスを受けるように努めている。元旦からデイサービスに出ることにより、介護者が自分の時間をとれるようにしたり、本来的には他人が家に入ったり、身体に触られるのが嫌いでも、ホームヘルプサービスやいろいろなサービスを受けることに納得している方もいた。
また、介護者が自分のために犠牲になることに気遣いを感じていて、介護者が楽しく生き生きと生活してほしいことを望んでいるのである。これは、介護を受けていない高齢者も、もし自分が障害をもった時を想定して話してくれる。一方介護者も自分の負担を人に見せないように振る舞っているが、それを他の家族が認識してくれないと、限界に達することになってしまう。被介護者との関係が良好で、介護を頑張ってやっている人ほど堂々とサービスを利用してきているようである。つまり、介護を継続していくために、被介護者のためにも、自分のためにもそれが得策だということに気づいているからである。