程度の差こそあれ、ほとんどの方が働ければ働いて少しでもお金をもらいたいと思っており、お金にならなくても家事や草取りなど家庭内での役割を持ちつづけることを望んでいる。
支出について注目すべきは、交際費に関する考え方である。基本的に地域社会のメンバーでありたいと考えている人が多く、「町内会費や祭りの寄付金は大事で出さなければならないんだけれど、年金暮らしの自分には本当はきついんだよね。」というように交際費を負担と感じていながらも、社会の中で生きていくために、地域のメンバーとなるために交際費は必要なのである。
いづれにせよ、経済的に自立しているものは、買い物にしても、交際費にしてもその出費の決定権を自分が持っていることになり、自立度が高まると考えられる。
(3) 健康増進の必要性と医療機関へのアクセス(系図F):「身体が健康である」
「身体が健康である」というウオンツの手段カードとして、「身体的機能が保たれる」「適切な医療サービスが受けられる」があげられた。つまり、健康増進と医療についてのウォンツである。
加齢による変化の中で、予防こそが大切だと思う高齢者も多く、歩くことを健康増進の1つのテーマとしている方が多い。「毎日、健康のために砂浜を1時間は歩いている。いつも会う人もいて、結構沢山の人が歩いていますよ。」と健康づくり、健康増進に積極的な高齢者も多い。また一方で、健康増進のための設備を求めている人もいて、できれば暖かい温水プールでインストラクターつきで安心して健康増進を行いたいということで隣の市まで通っている高齢者もいる。
医療については、「もっと話を聞いて欲しい」という意見も多い中で、時間に終われた診療と接遇をスタッフ数が少ないからだと解釈しているものもいれば、スタッフの質の問題を取りあげる方もいた。救急医療システムについては、救急車を呼んでも入りくんだ家では救急隊が家を探しあてるのも困難なことが多く、そこに地域住民、特に近所の方の救急車誘導などの援助を望むウオンツもあげられた。
先に交通機関のところで述べたが、交通機関の不便を感じている高齢者が多く、それは受診するときにもあてはまる。週に1回町内を巡回する町立病院までの送迎バスがあるが、巡回経路や回数の不便を感じている。また、病院の送迎バスといってもリフトや段差の少ないバスではなく、一般のステップの高いバスなために高齢者にとっては使いにくいバスのようである。やむなくタクシーを利用すれば、片道1000円以上もかかるので、医療費がほとんどかからないにしても、通院費用が大きな負担になってしまっている。安心して受診できるためにも、医療施設への交通の便を整えることが必須であるというウオンツが数多くあった。
(4)-1] 受容・信仰の継続・自立・生きがいづくり(系図G):「高齢者が精神的に満たされている」
「高齢者が精神的に満たされている」というウオンツの手段カードとして、「老い、死を受容している」「信仰を継続できる」「自立しているという誇りを持ちつづける」「生きがいがある」「家族と楽しく暮らせる」があげられた。高齢者の精神的に満たされた状態は、生活を共にする家族がいればその「家族と楽しく暮らせる」状態が非常に重要な要因である。ただ、「家族と楽しく暮らせる」ための諸手段は本人の内面というより家族の側の要因が大きいため別に分けて考えるほうが望ましく、次項に系図を別にして考察する。