まさかの時の対応についても、緊急通報システムの充実と地域、特に直ぐに駆けつけてもらえる近所との関係を重要視している高齢者も少なくなかった。すでに町では安心電話の設置と近所の連絡者の確保を行っているが、緊急時の体制については高齢者の心配の種なのだということを再認識する必要がある。それは「安心電話まで到着できればいいけど」と、急に状態が悪化したときの心配が除けない独居高齢者が多いことからも伺える。
また多くの調査で実証されているように、「施設には、絶対行きたくない。年をとったらみんなに(ケアスタッフに)お世話になって…」「年をとっても施設には行きたくないけど、あたって(脳卒中になって)ボケたり、わからないようだったら迷惑になるから施設に入れてほしい」というように本質的に自宅で過ごしていきたいという願望が強かった。家で住んでいく手段として、健康を維持すること、病気を悪化させないこと、ボケ予防に動くこと、何かあったら在宅サービスを受けたいということなど建設的に考えている高齢者が多かった。また、現在障害がある方は逆に在宅願望がもっと強く前面に出ていることが多く、まさに当事者的状況におかれたときの心理が読み取れる。
4]-2. 保証としての施設整備(系図D2):「生活しやすい環境の施設がある」
「生活しやすい環境の施設がある」というウオンツの手段カードとして、「施設内がバリアフリーである」「頼れるスタッフがいる」「利用できる施設が十分ある」があげられた。
ミドルステイやショートステイを利用したり、デイサービスの利用などで入所施設を知る高齢者も多かったが、施設の設備に関してはほぼ満足しているようであった。ただ、施設の一部分について日頃不便を感じている部分を指摘した方もいた。逆に利用したことのない高齢者を中心にハード面よりはむしろ施設のスタッフの質が高いことを望む声があった。また、「一人暮らしで大変だから、老人ホームに入りたいけど何十人も待っていて入れないといわれた。入れるようにしてほしい」と、入所施設が需要に追いつかず、今もそうだが、いざという時に入れないんじゃないかという声も多かった。本来的には住み慣れた家で生活したくても状況が許さなくなったら、子供もいないし、あるいは子供に厄介になりたくないから入所したいと考えている方も少なくなかった。一方在宅を続けて来た介護者からも、自分たちの生活のために介護が続けられないので、何とか入所させたいという声も聞かれ、入所施設の量的充実を求める声が高かった。
(2) “生きるための生活費”と“社会活動のための交際費”の安定(系図E):「経済的に安定している」
「経済的に安定している」というウオンツの手段カードとして、「生活していく収入・貯蓄がある」「負担となる支出がない」があげられた。
定年を終えた高齢者でも、まだまだ自立していて、就労能力がある方は多い。自分の能力をまだまだ活用したいと思う高齢者は、「ゲートボールとかデイサービスとかそんなことをしてる場合じゃない。まだまだ稼がないと。小遣い銭程度でもいいから働ける場所がないかな。少しは生活の足しになるし、孫にお金をあげてもいいし。」と語る。この点、農業や漁業などの1次産業を行ってきた高齢者は体力の限界が来ない限り仕事をしつづけることができる。生きがいは何かとたずねると、仕事、働くことと答える方も多く、仕事をすること、家庭での役割を持つことに存在意義を持っている方も多い。「働かざるもの食うべからず。這ってでも草取りをする。」という衝撃的な言葉を腰の曲がった、指の変形した高齢者から聞いたときは、生きることへの厳しささえ感じられた。