「生活環境を選べる」というウオンツの手段カードとして、「生活しやすい環境の家庭がある」「生活しやすい環境の施設がある」があげられた。これら大きく2つに分けられた生活環境には“希望としての環境”と“保証としての環境”という文脈がある。
4]-1. 現実と希望の在宅生活(系図D1):「生活しやすい環境の家庭がある」
「生活しやすい環境の家庭がある」というウオンツの手段カードとして、「住環境が保たれている」「近所の方から見守られている」「家庭で適切な介護が受けられる」「緊急時に適切なサービスが受けられる」があげられた。
一部の高齢者は現在比較的自立していても、介護保険制度における在宅サービスを準備状態として知識化しているということが分かった。裏返せば、当町は県内のモデル地区として包括ケアシステムを進めてきており、その成果として在宅ケアサービスが充実され、サービスを利用することで、あるいは利用者を見ることで身についた知識であると考えられる。
当町での高齢者の生活上の大きな心配の1つに冬の寒冷をどうしのぐかという問題がある。これまでは、社会的入院をすることで独居高齢者は寒さから逃れていた。しかし近年の医療政策などでそうした高齢者が居る場所が無くなったという事実がある。「冬は、それでなくとも痛い関節が病めて(痛んで)動けなくなるし、大変だ。どこか施設に入れないものか」「雪が降れば雪かきもできないので、冬は家から出られなくなる。」「火が怖くてストーブもなるべく付けない」というように冬越しは独居高齢者、老夫婦世帯にとって精神的負担なだけではなく、身体的にも大きな負担となる可能性が高い。実際往診に行くと、こちらが5分と立っていられないくらい寒い家にコタツに脚だけ入れて、何重にも重ねた衣服に包まれて丸くなっている。暖房にかかる費用や、火元の心配が大きな理由だという。安全で安価な暖房設備と、見回りなどの対応を望んでいる独居高齢者も多い。
バリアフリーの必要性を認識している高齢者は多い。理学療法士のアドバイスに「やり方を教えてくれれば自分でもできるよ。」と、スロープを自分で作ったり、段差解消のためのあて木を作った介護者もいた。知識さえ与えられればバリアフリー環境を作れる高齢者もいる。ただし、多くの高齢者や介護者は、住環境をバリアフリーにする必要があることは知識としては知っているが、経済的な負担、行政手続きの面倒さなどの問題を認識している。
在宅介護について、提供されるケアサービスだけに任せておくのではなく、家族も介護の多くの部分を担う必要があるものと認識している。そのような認識の中で、「これからは、お互い年をとるし介護保険だとか、介護の仕方もまた覚えていかなくてはならないね。起こし方1つにしても、前に父親を介護した時、コツを覚えたら随分と楽に起こせましたよ。」と過去の経験から、介護知識が介護を楽に、安心して行える糧になることを知っている高齢者や介護者も少なくなかった。また、先の見えない介護生活に不安を持つ声もあり、継続していく方法を模索している介護者もいる。
在宅生活を安心して送るための手段として、独居高齢者ばかりではなく、家族と同居している高齢者から「民生員さんなどが町から情報をもらって声かけをするとかで、地区で年寄りをみて手伝ってあげないと、これから一人ぐらしの年寄りも増えるから大変だよ。」「近所でみてあげれればいいけど、そうもいかないしね。」といった具合に、地域での見守りが在宅生活を送る上で必要であることが認識されていたり、ウオンツとして抱かれたりしている。