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また、多くの高齢者はバスへの乗り降り、バス内での移動にも危険性を感じている。「もうバスには乗れない。あの階段を昇るのも大変だけど、降りるときはいつ転ぶかと心配している。ゆっくり降りるとバスを待たせてしまうし、急がされることもあって、みんなに迷惑をかける」と語る高齢者も多く、自分の行動範囲を狭めたり、家人の予定に受診を合わせなくてはならない状況にある。バス巡回経路の確保と、回数の充実、高齢者や障害者が気がねせずに使える本来の公共の乗り物の設備が望まれている。

 

「外出しやすい町である」ことは、生活の自立、社会的活動の自立、自分の存在感を維持していくための手段であることがこれらの関係からも読み取れる。車社会の弊害によってもたらされた“歩いて移動して、人や社会と和することの困難さ”と、社会的な力と地域づくりを若い世代に譲った高齢者の遠慮を読み取ることができる。

 

3] 知識にも裏付けられた住民の暖かいまなざし(系図C):「町民が高齢者支援に協力的である」

「町民が高齢者支援に協力的である」というウオンツの手段カードとして、「高齢者や障害者の状態について知識がある」「福祉に関する情報が身近に提供されている」「福祉の教育、学習の機会が提供されている」があげられた。言いかえれば、高齢者自体を知って欲しいということ、自らも福祉情報を求めているということ、さらに町民の福祉理解についてレベルアップの必要性を感じているということである。

「町の世話にはなりたくないから、ボランティアの人を活用したいと思っているが、何をしてくれて、どこに行けば教えてくれるのかわからない。」とボランティアを望む声がある一方、「何かボランティアをしたいんだけど、町のきまりでやるんじゃなくて気軽にできるようなのがないかなー」と参加するための情報を求めている高齢者もいた。ボランティアが行政主導で動いているようなマイナスの捉え方をしている高齢者もいる。「福祉の世話にはまだならない」「福祉の世話になるようだと終わりだ」という言葉で表現される“福祉”の概念と、“ボランティア”の概念を分けて理解している高齢者もいる。つまり、いわゆる行政から措置される福祉ではなく、措置や町の施しではない地域住民の真心で行われるボランティア・サービスに期待を持っている高齢者が存在していることがわかった。そして自らも興味があり、学ぶ機会を期待しているのである。

一方、加齢による身体機能の低下や障害のある高齢者の中には、「家や病院で寝起きさせられるときは、とても辛いがデイサービスはよく考えてくれる」という言葉のようにケアサービスを受けることで質の高いケア、ちょっとした気配りでの安楽を実感し、学習している被介護者もいる。そんな中で家族やケアスタッフ、ボランティアを含めた援助者には直接要望しにくいけれども、抱いている質の高いケアを求めるウオンツが抽出された。また、独居高齢者宅を小学生が訪問するという試みがなされており、孫やひ孫と同じ年代の生き生きとした子供との接触を非常に楽しみにしているという独居高齢者らもいた。

これらの文脈から分析すると、ケアスタッフや家族のみならず、日頃住民の高齢者を見る目、接する空気を地域ぐるみで発展させていくことが、安心した生活を送るための環境づくりに必要だという意識が高齢者の心に内在していることが読み取れる。

 

4] “現実と希望の在宅生活”の充実と“保証としての施設整備”の充実(系図D1、D2):「生活環境を選べる」

 

 

 

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