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芋洗いみたいだし、ゆっくり使って話すこともできない。自分で身体を洗う時間もない。」という声にもあるように、生活の中での入浴の意味合いは大きく、ある程度自立した高齢者には、自分のペースで入浴して、コミュニケーションをとれる大きな浴場の復興を願うものが多かった。「家の風呂は狭くてだめだ。交流館には風呂があるけど行く足がない」という声にもあるように、無料で提供されている公的な入浴施設は立地条件と交通条件が悪く、今回調査した町内の高齢者には実質的利用価値が感じられていない。ただ、自立度の低い要介護高齢者はデイサービス事業などのおかげで「毎週入浴できて本当にありがたい。風呂は気持ちがよい。」と入浴を楽しみにしている。自立度に応じて、入浴する場所1つをとってみても要望が異なるのは当然だが、より自立した高齢者にとっては入浴はただの洗身にとどまらない社会的意味合いを持つことが改めてわかる。

 

2]-3. 高齢者の身体機能を意識した交通手段の充実(系図B3):「交通機関を自由に利用できる」

「交通機関を自由に利用できる」というウオンツの手段として「高齢者や障害者でも交通機関を利用できる」「バスが利用しやすい」「タクシーの料金が負担にならない」があげられた。当町は主な交通機関として民間バスとタクシーがあげられるが、バス路線は充実しておらず、巡回の頻度も以前よりも減ったことを高齢者は指摘していた。これは、各世帯の平均自家用車保有台数も1台以上となり、若い世代あるいは自立した世代にとっては自家用車を基本とした車社会に適応できる状態となった影響がある。しかし、高齢者世帯あるいは若い世代と同居していても高齢者にとっては自宅の車が自分の利用できる車とは言いがたい。このような社会の変化のために、車社会を基盤とした考えや土地の問題から、公共施設も必ずしも中心街に位置せず、しかもバスの巡回経路となっていなかったり、あっても頻度がかなり限られた状況にあったりする。また、郊外にある大型ショッピングセンターに対しても「若い人は若い人なりに行くところがあるんだし、年寄りはそんなに買うものもないから出かけなくていいんだ」と話した高齢者が、デイサービスで大型ショッピングセンターに行ってきた後は、「面白かった。物を買っても全部職員が運んでくれるし、いろんな物があって見ているだけでも面白い。また行きたい。」と話していた。高齢者だからといって新しいショッピングセンターが不要な訳でもないし、買い物に行くのがただ面倒な訳ではないことがわかる。実際デイサービスの行事としての大型ショッピングセンターでの買い物は人気があり、定着したサービスとなっている。以前は歩ける距離、自転車で行けるところである程度の買い物も可能だったが、社会構造の変化がもたらした地元商店街への影響や加齢による身体機能の低下は豊かな日常生活の営みに支障を与えている。本来、価値観は相対的なものであり、自分の知るところに大型ショッピングセンターがあれば、それとの比較で価値観が形成されることはごく自然で、高齢者も例外ではかった。

一方、日常的買い物は地元商店街、スーパーで行う高齢者が多い。自転車に乗れる高齢者は40分かけて買い物に来たり、歩いて買い物に来るという。若い世代ではおおよそ考えにくいことである。しかしながら、自転車に乗れない高齢者や、長距離の歩行が困難な高齢者は買い物を他者に依存しなくてはならない。代行のきかない用事や通院などは、無理してバスに乗るか、安くはない料金を払ってタクシーを利用する以外に方法がなくなる。そのような背景から、タクシーやバスの料金に対するウオンツは真に迫っている。北国の冬は高齢者にはあまりにも寒く、バス停での待ち時間は一層過酷な時間となってしまう。このような背景から、雨風をしのげるバス停、短くはない距離を歩いてきた高齢者の疲れを癒す椅子の設置は高齢者が移動するための欠かせないウオンツなのである。

 

 

 

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