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2] 「外出しやすい町である」(系図Bl、B2、B3)

「外出しやすい町である」というウオンツの手段カードとして、「安心して町を歩ける」「人が集まれる場所がある」「交通機関を自由に利用できる」があげられた。言い換えれば、移動・交通・商店街・公共施設に対するウオンツである。

 

2]-1. 自立と社会化を促す歩ける環境・歩ける道路(系図B1):「安心して町を歩ける」

「安心して町を歩ける」というウオンツの手段カードとして、「歩道が歩きやすい」「公衆トイレが充実している」「いろいろな所で休憩所を利用できる」があげられた。さらにかなり具体的な手段が挙げられていることは、意識下なのか無意識下なのかは不明だが、ウオンツというよりも“切実な問題”としてすでに認識されていることが系図からも読み取れるし、情報収集の過程でそれらの文脈が明らかであった。「最近は、大きなトラックがビュンビュン飛ばして行って、傾いた歩道では老人カーはおっかないな(怖いな)。でも、こわくなったら(疲れたら)、おっかないけど(怖いけれど)縁石に腰掛けているよ。だって、歩けなくなるもの」と語る高齢者も多かった。実際その方々の近所を歩いてみると、若い人が歩くのにも狭いし、確かに歩道が傾いている。さらに大型トラックが通る幹線道路となっていて、走行するトラックに風であおられてしまう状況であった。広くて段差のない平らな安全な歩道と、休憩のためのスペースを望むのは納得できる。冬ともなれば凍結や積雪の問題もあり更に事態は悪化する。車道から除雪された雪は歩道に積み上げられるしかなく、高齢者の歩行はまず無理だという。普段、車で移動することの多いほとんどの住民には現実問題として認識されにくく、行政施策として反映されにくい構図になっていることが示唆された。

高齢者は生理機能として、排尿が頻回であったり、緊張などで尿意の切迫感を感じるが、そのような状態にある高齢者にとっては利用できるトイレがないことは、比較的長く歩行したい場合の大きな支障になっていることがわかった。このような生理機能の変化からくる高齢者特有の状況を考慮してほしいというウオンツが読み取られる。

身体的生活自立度が低く、介護を要する高齢者は“歩く”という意味合いが異なっていた。つまり、通常は歩くことは目的達成の手段であるが、歩行が困難あるいは不可能なものにとっては歩くことは目的達成手段ではなく、“歩くこと自体が目的”となっているのである。さらに言えば、立てないものは“立つこと自体が目的”なのである。デイサービスを利用している立つことのできない高齢者が語った「昔のように、自分の足で立ってみたい。立っている感じを味わってみたい」ということである。それに対して立ったら何をするのかと聞いてみると、「いや、とにかく立ってるという感じが欲しいんだ」と語った。心理学でいうところの内発的欲求(intrinsic な要求)7と解釈できる。つまり、その行動自体が目的であり、それによって得られる満足感だけを求めているのであり、他の報酬を求めない欲求なのである。内発的欲求という概念を通して考えてみると、安心して町を歩けること自体が時に内発的欲求であることが考えられる。いわゆる“無目的な散歩”は、歩くこと、見ること、風を受けることで得られる感覚と刺激を内発的に求めている行為なのかもしれない。自立度がある程度高い高齢者にとっては、道路はまさに生活の幹線であり自由に歩ける歩道は安全に行動範囲を広げ、交流と刺激のチャンスを与えてくれることが期待されている。

 

 

 

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