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全体を通していえることは、独居高齢者やケアサービスを受けている虚弱から準寝たきりの高齢者、あるいは日ごろ声高ではない自立した高齢者も含めて、高齢者は多くの、包括的なウオンツを抱いていて、通常は世間にそのウオンツが示されていなかっただけだということである。今回の調査において高齢者のウオンツが具体的内容から、さらに発展性のある抽象的なウオンツまで奥深く存在し、さらに多面的、包括的、社会的なものであるといえる。

 

(1) 高齢者が生活しやすい環境

生活環境についてのウオンツカテゴリーはさらに、情報、交通機関、人が集まることのできる公共施設、自分で歩ける道路、町民の福祉理解、住居、入所施設環境と大きく7つのウオンツカテゴリーに分類された。高齢者にとって生活しやすい環境とはこれらの要素の充実が必要と思われているということである。

 

1] 理解できる手段で、必要な所に提供される情報(系図A):「高齢者が福祉や保健の十分な情報が得られている」

「高齢者が福祉や保健の十分な情報が得られている」というウオンツの手段カードとして、「相談窓口で気軽に相談できる」「よく行く場所で情報が得られる」「家にいて情報が得られる」「理解できる情報手段で情報が得られる」「高齢者が保健・福祉に興味がある」があげられた。還元すれば、情報取得場所の質と量、情報提供者の質と量、情報手段の質と量、高齢者自身の関心の必要性についての意見が具体的な生活の視点から挙げられている。当町は山間僻地というような場所はなく、比較的狭い面積の中に集落をなして成り立っている。このような利点を生かして有線放送で町内に情報提供しており、それを頼りにしている高齢者も多いことがわかった。そんな中で、「私は字も読めないし、あまり出ても歩けないから(有線)放送だけが頼りなんです。でもやまびこになって聞けないし、女の人の声は聞きとりにくい。」と話す高齢者の言葉のごとく、放送のスピーカーの向きや、スピーカー同士の向きの問題などで聞き取りにくいこと、声質による聞き取りにくさを日頃より感じており同調するものも多かった。また、高齢者は身体機能の低下に伴い移動することが、時間的にも体力的にも困難なことが多く、日常の用事を済ます商店街、病院、地域保健福祉施設などで情報を得たいというウオンツを抱いていることが明らかになった。そのほか、近郊にある米軍基地の飛行訓練などの影響によるテレビの電波障害の対策として設置されたテレビ電波受信用ケーブルを用いた情報提供を考えている高齢者もいた。

日常生活自立度が低い方々、難聴がある方々は地域ネットワークを活かした情報の提供を望んでおり、地域住民、特に民生員を頼りにしていた。これは民生員への期待でもあるが、文脈から日頃、民生員が地域に密着した活動を行っており、その信頼のおける相手への更なる要望と受け取れた。当町においては地域ネットワークが比較的活用されていることがわかる。高齢者からのインタビューの中で、地域ネットワークは新たな構築の成果というより、一般に近代化されて薄れつつある地域ネットワークがその機能を維持してきたものと捉えられていることがわかる。

いづれにおいても、“自分の要望に応じて必要な情報をとりに行く”というのではなく、“必要な情報が身近なところにある”ことを要望し、“知らないことを知らない”という情報の特性を理解していると考えられる。

 

 

 

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