しかしながら、一般に小型機の多くは、大型機のような高精度の航法・通信機器を装備していない。航法装置についてはGNSSを中心とした改善策が実現されつつあるが、衛星通信とデータ通信を2本柱とした通信機器の改善については、小型機への装備率はほぼゼロであるといえる。
これは、現状の航空機用衛星通信インフラ、データ通信インフラが小型機向けに開発されたものではないため大型かつ高価である、という理由だけでなく、それらの技術を利用して送受信する小型機向けの情報が明確でない、すなわち通信機器本体の問題に加え、小型機向けの支援サービス(アプリケーション)の要件が具体的なデータを基に定義されていない、という問題も大きな部分を占めていると考えられる。
本調査・研究は、この小型機運航において必要となるアプリケーションの方向性を見定める上で必要となる基礎データを収集することを目指し3年間の調査、試験、評価を実施してきた。
5.2.2 本調査・研究で得られた成果
平成9年度より3年間に亘り実施してきた本調査・研究で得られた成果をまとめると、以下のようになる。
(1)データリンクの可能性
小型機において空地データリンクを利用することにより、フライトの安全性と運航管理業務の高度化を図ることが期待できる。具体的には以下のような可能性が明らかになった。
(a)情報伝達量の大幅な向上
トラフィック情報のような連続したデータ伝送においては、通信トラフィックが限界で送信間隔をある程度空ける必要があったものの、レーダーエコー強度のような大量の(画像)データであっても、パイロットが充分許容可能な時間内に伝送可能であった。
試用システムで利用したVHF-ACARSは大型定期便において広く普及しているが伝送速度自体は2400bpsと低い。将来の通信インフラでは衛星通信においても大幅な伝送速度の向上が実現される予定(例えばインマルサットHSDでは64kbpsの高速データ通信が可能)である。そういった状況を鑑みると、データリンクを利用すれば、大量の情報を迅速に小型機に対し提供することが可能である。
(b)インターフェースの多様さ
地上から受信した気象情報やトラフィック情報をマップディスプレイ表示や音声警報のような様々なインターフェースにより的確かつ迅速にパイロットに伝達可能であった。
試用システムでは、費用的・時間的制約によりマンマシンインターフェースの作りこみに制約があったが、音声認識・音声合成や3次元表示等のデジタル技術の進歩と低価格化は著しく、現時点でも機上端末の大幅なインターフェース向上が実現可能である。そういった状況を鑑みると、音声通信では聴覚に限定されていたパイロットとの接点が、データリンクを利用すれば個々のパイロットの要望に応じて多種多様な形態に拡げることが可能である。