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休日に核家族の夫婦と子供が連れ立ってTシャツ、ジーンズ、スニーカー姿のおそろいでマクドナルドのバーガーとコーラを手に歩道や公園を歩く姿は、極めて現代的にポピュラーな食事風景として定着するのである。しかも、この姿はラーメンや回転寿司、牛丼のファーストフード店でも少しもおかしくない。「気軽に、動きやすく、丈夫で」外食向きのカジュアル・スタイルとなる。

 

6. 中流意識の衣食

 

Tシャツ、ジーンズ、スニーカーといったスタイルは、アメリカ発のグローバル・ファッションであるが、日本では70年代半ば頃に顕著になった「一億総中流化」現象の中で急速に広がった。人口の90%が中流意識をもつとは76年に指摘されたことであるが、同時に価値観の変化も衣食については著しく起こった。60年末から70年代初めにかけての大学紛争、ベトナム戦争、70年代の日本では大阪のEXPOの成功の後の文化の大衆化、原宿・青山のブティック街の出現と西武のセゾン文化、暴走族、コンビニエンス・ストア第1号店「セブンイレブン」が東京台東区に開店(74年)、ファション・アパレルの種類の多様化からスタイルの多材多彩化、トレーニングウェアもジョギングなどの流行から盛んになった。また2度の石油ショックの後で省エネ・ルックも出現した。ノーネクタイ、ノージャケットの仕事着である。79年には大学入試の共通一次試験が導入され、学生のテキストと知識のマニュアル化が進んだ。

他にも多々あるであろうが、70年代を通して、「気軽さ、カジュアル、便利で早い、対応の自由」などの傾向が、衣と食のファーストフード化の背後にあった。

 

7. ハイカルチャー志向

 

70年代にはじまる衣と食におけるファーストフード化現象について概観したが、経済発展は日本において、衣食の、以上にみたような大衆化傾向と同時にハイカルチャー志向も強く生み出したことを指摘しなければならない。

食文化におけるグルメ志向は各種の高級フランス料理店、高級な和食店、中国料理店などを出現させた。ワインに凝り、贅を凝らした高級料理を探す。服装においてはトラッド志向、西欧ブランド製品、高級仕立て服、フォーマルな装いなどが目立つようになった。

70年代にはじまるファーストフード化とハイカルチャー志向の衣食文化における二極化は、しかし、西欧・アメリカ・アジア社会に見られるような社会の階級差による分極化ではなく、一般的な中間社会層の増大の中で、「誰もができる」こととして発展した。これが日本社会の特徴である。高級シティホテルでのパーティーや高級レストランなどへ行くためのハイファションを装う人間が、同時にTシャツやジーンズ、スニーカーのファーストフード化を実践している。日本マクドナルド店の新開店は、おそらく世界中でもっとも平等化した客層を顧客としてもっている。スリーピースに身を固めたエリートサラリーマンがビッグマックを頬張る横には白髪のおばあさんがいて、Tシャツにジーンズの若者に子連れの中年の主婦がいるといった風景は、たとえばアメリカでは見られない。

 

 

 

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