むしろ考えられるその要因としては60年代から進展してきた日本社会の都市化、核家族化、経済成長の結果としての日常生活の余裕、マイホーム主義的な家庭観からの外食傾向、女性の家事離れ(中食現象)、母親の味の変容(郷土料理からハンバーガーへ)、そして中でも日本人の生活(社会生活)における時間観念の変化(何事もスピードアップ;たとえば吉野家では、店内で客一人の滞在時間は約7分)、といった要因がファースト・フード化の急速な進展をもたらしたと考えられる。私があげたファーストフード系の4品目も、すべて従来の飲食店やレストランと比べると、シンプルさ、料理作業の透明さ、画一的な製品(どの店でも同じ─品質の保証)という特徴が見られる。そして、とくに客を待たせないことに重点がおかれ、薄利商品であることからも客の回転の速さは営業上も大きな課題となっている。
こうした特徴と要因をみて気づくことは、食文化におけるグローバル化とは、それを促進する社会の経済発展、社会変化、工業製品化における利便性の発達、都市の中間層の出現と発展、女性の役割の変化(家事の機械化による手仕事の重圧からの解放、就職率の増加など)、テレビや情報化の影響による文化の共通意識の発達、マイホーム主義、気軽に外食をする習慣の定着などによってもたらされるものであり、外発的と同時に内発的な変化がもたらすものに他ならないことが分かる。
5. 服装におけるファーストフード化
しかし、70年代を見ると、服装におけるファーストフード化現象ともいうべき、Tシャツ、ジーパンもまた大きく日本人の服装スタイルを覆うようになった時期であることがわかる。服装における簡易化が社会を覆いはじめ、徐々にTシャツ、ジーンズが若者だけのファッションではなく中高年の男女の普段着として定着しはじめる。
ファッションは洋服といわれるように近代日本では圧倒的な西欧文化の影響の下で発達した。洋服と和服といわれても、実際の社会生活ではほぼ全体が洋服化をとげており、特殊な例外を含むだけである。家庭でも和服は男女ともに姿を消しつつある。ゆかた、ねまき、あるいは冠婚葬祭のときの羽織・袴姿が男性の一部に、女性には和服がかなり残されているとはいえ、結婚式のときの花嫁姿も洋装のウェディングドレスと文金島田とが2段階的に利用されるくらいである。
Tシャツ、ジーンズは食文化におけるファーストフード化と同じような役割を服装文化において果たしている。「安い、早い、うまい」のファーストフードに対して「気軽、軽快、丈夫」とでもいったことばがTシャツ、ジーンズに与えられる。それにスポーツ靴、スニーカーが加わって、現代の「気軽(若さ性)、軽快 (着こなしのよさ)、丈夫(どこでも座れ、歩ける)スタイルは完成する。
たとえば、71年7月に銀座三越のショーウィンドウ部分を借りてオープンした日本マクドナルド第1号店には室内の食べる部分のスペースがなく、客は外側の歩道その他の公共の場所で食べるしかなかった。これは立ち食いバーガーとハンバーガーの食べ方のひとつとなったが、外で舗道に座ったりして食べるスタイルにTシャツ、ジーンズ、スニーカーはぴったりとくる。