(7) 組織づくり
日本マクドナルドは従業員の組織づくりにおいて、学歴主義は排除するが、採用した従業員には徹底したハンバーガー製造・販売についてのトレーニングを施す。すでに開店前の71年1月にハンバーガー大学を設立し、そこに社員を入れて訓練し、ハンバーガー大学卒業を課している。その人事方針は、能力主義と浪花節のミックスとよばれるように、実績に基づく能力差による身分制的な職階制と、10年勤続で特定職位に到達した社員は、フランチャイズ・オーナーになれる権利を与えられる。一種の「のれん分け」の制度であり、日本一の給与水準と決算ボーナス、充実した福祉施設と保険制度がある。全従業員にお年玉、桃の節句、端午の節句、誕生日などのお祝いが出され、奥様誕生日の花束贈呈がある。
4. ファーストフード化の多様性
日本マクドナルドのダントツの営業成績は明らかであり、その営業の特徴について、以上概観したが、そこには、近代・現代日本の欧・米文化への傾斜と、70年代の日本人の生活の変容を背景にした。「新しい食文化」の導入という商業戦略とがたくみに組み合わされて、「一億総中流化」への波の中での成功を見るにいたった経緯がよく示されている。
しかし、日本マクドナルド、そして日本KFCその他のアメリカ系外食産業の成功のみを見て早急にこれをアメリカ化(グローバル化)と判断するのは危険である。
その理由は、日本マクドナルド他のアメリカ系外食産業、とくにファーストフード系の食品が70年代初めに出現したとき、ほとんど同時に日本の伝統食品のファーストフード化現象も出現していたからである。簡易なテイクアウト製品を中心とした「小僧寿し本部」は売上ベスト10の上位に80年代まで入っており、また「回転寿司」も本格的にファーストフード市場に参加するのは70年代初めである。また牛丼の「吉野家」が本格的に営業を拡大しはじめるのも同じ時期であり、中華そばが「ラーメン」として広く日本人の食生活の中に浸透するのも70年代に他ならない。
現在の日本の外食産業におけるファーストフード系の食品は、1.ハンバーガー系列、2.簡易寿司系列、3.牛丼系列、4.ラーメン系列の4つを数えると私はとらえているが、これら4品目がファーストフード系食品として食品・レストラン市場に参入し、拡大し、日本人の食生活の中に大きな地位を占めるに至る「開始期」はみな1970年代初めなのである。
マクドナルドやKFCがアメリカ系としてやってきて、大衆的な食品飲食業市場を開拓したわけではない。ほぼ同時発生的に飲食行為(食事行為)のファーストフード化が行われはじめたとみることができることから、この店においてグローバル化をアメリカ化とか外来文化ととらえることはできない。70年代にはじまる飲食・外食産業の変化とそれに対応する消費者の好みの変化とを合わせて「ファーストフード化現象」と仮に呼ぶとしても、そこには外発的と内発的の両者が見られるのであり、一方的な波としてのグローバル化とみなすわけにはいかない。