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既存の労働力養成過程(高校、大学等の高等教育過程も含む)を経た人材のみでは対応力不足を余儀なくさせられるからである。変化の時代に対応した経営戦略、人事戦略を活発化させて企業の競争力を確保し、且つ他方では終身雇用の制度的・慣習的継続を全体レベルで実現する為には、外部からの即戦力の移入とその内部戦力化が不可欠である。必然として、キャリアトラックの多様化が促進され、同時に「中途」採用者の「たたきあげ」社員に対する昇進・昇級その他の面での劣勢は、少なくとも特定の"先端的"部署においては是正されねばならず、これまで後者を優先してきた「年功序列」の慣習は、ある程度mitigateされることになるであろう。

 

2. コーポレート・ガバナンスについて

 

コーポレート・ガバナンス(C.G.)とは、直訳すれば「企業統治」であるが、ここで問題とされていることは、単なる企業の統治体制ではない。それは、(1)いかなる経営意思決定システムを構築すべきか、(2)その意志決定をいかに牽制すべきか、そして (3)ステークホルダーと総称される多様な利害関係者(株主、経営者、従業員、債権者から、関連企業、取引先、顧客、そして地域社会まで)相互間で、どのように権限と責任を分担し、どのように経営成果を配分すべきか、といったことを、特に効率性を中心的視点に据えながら再検討することであり14、その上で適合的企業経営システムを構築していくことが課題とされる。「日本のコーポレートガバナンス」についての論議は、とりわけ、同問題のコンテクストにおける株主価値についてが中心テーマになることが多い。しかし、既述の如く、多様な利害関係者の全体的相互性をその問題のスコープに入れたものであり、究極的には労使関係の在り方、企業 「利益」の再定義と再分配、そして、「地域社会」への利益還元といった問題を中心としたフィランソロピックなテーマにまで延伸する問題である。

日本では近年、C.G.の在り方を変容するにむけた一連の法改正が行われた。1993年の商法改正においては、株主代表訴訟の簡素化などによる株主権の強化と、監査役監査の機能強化が実現され、翌1994年の商法改正では、自己株式取得における規制が緩和された。1995年にはPL法が施行され、1997年の商法改正でストックオプション制度が導入されると同時に、独占禁止法改正により持ち株会社が解禁となった。これらにより、a)経営の透明性確保のためのチェック機能が強化され、b)自己株式取得の緩和による財務戦略の弾力化が促された。c)ストックオプション制度が導入されて報酬制度が変革されたと同時に、d)持ち株会社の解禁等は、企業構造自体の変革を促すものとして注目される。15

日本では、いわゆる大企業を中心に、同系列の企業間による株式の持ち合いが慣習として行われている一方、第三者、特に個人単位での株式保持は、戦後減少の一途を辿ってきた。例えば、平成8年度の上場企業の発行済み株式総数において、個人投資家が所有する株式の割合は23.6%である。これに対し、事業法人(23.8%)と金融機関(37.0%) のもつ株式総数の割合は、合計で60.8%に達する。16 アメリカにおいても、個人投資家の株式所有率は低いが、日本における株取引の特徴は、同系列企業間、ならびにメインバンクによる株式所持であり、市場動向に任された株式の売買と、自由な売買の「場」の存在を前提とした「第三者」による株式取引が健全に行われていないことをあらわしている。

 

 

 

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