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このような新しい「日本」イメージと、たとえばサントリーの商品の販売の伸びを直接結びつけて説明することはできないものの、消費者の嗜好の「多様性」が単なる選択の幅の広がりではなく日本の商品の購入へと向かっていることには、何らかの「日本への眺め」の影響があると見てもよいと思われる。

 

(2) マーケティングと共通経験

製品の販売に商品イメージが大きく影響するのはたしかだが、具体的に商品を「売っていく」には、販路の獲得や取扱店の開拓など地道な活動がまず必要である。アジア各国での販売成績が、他国企業に比べても伸びている理由の一つとして、サントリーの営業担当者が挙げるのが「日本的な売り方が現地に合っている」という点である。たとえば販路の開拓にあたって契約だけで事をすませるのではなく、訪問を繰り返しては深い人間関係をつくっていくやりかたや、勤務時間外にもお酒を飲みながら業務店をまわっては新規の取扱店を獲得していくようなやりかたは、たしかに日本に特徴的なやりかたである。サントリーが欧米に進出しようとしたとき、このようなやりかたはまったく通用せず途方にくれたとのことだが、アジアでは人付き合いのしかたが日本と似ている部分があるからか、逆に「日本的」に攻めていかなければ、成果も上がらず、相手が動いてくれないという。

また商品というのは、もともとある商品が生み出されてきた経緯や利用のしかたといった「周辺情報」とは無関係になだれこんでくるわけで、戦後の日本において「周辺情報」や日本の事情にあったイメージを補足しながら、それらを新しい「生活文化」として根付かせていったのが、まさにサントリーや資生堂の活動だったのである。今アジア諸国の消費者が、おびただしい数の商品をどのように選びながら「生活文化」の中に取り入れていくのか、またいかせるのか、それを広告・宣伝活動等を通してプロモートしていく際に、このような社会変化の共通経験が、強みになっている面があるという。

以上、サントリーの国際事業展開、とくに近年のアジアでの展開を通して分かることは、商品の販売や消費という経済活動に、日本のマスカルチャーやポップカルチャーの浸透や、そこから派生してくる国のイメージといったものが大きく影響を及ぼしているということであり、また販売活動においては「イメージ」と合わせて、具体的な社会変化の経験や、人間関係のつくりあげられかたもまた重要な要素になっているということである。

「グローバリゼーション」という変化や現象をつくりあげている要素として、ここでは「社会変化の経験」という点での日本とアジア諸国との親近性、そして日本へのアジア諸国の「眺め」やイメージをとりだすことができるのである。

 

 

 

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