このようにアジア各国の消費者が、徐々に「消費」に対する冷静さと余裕を見せ始めているとも言えるのだが、なぜ日本以外の、たとえば欧米の商品ではなく日本のメーカーの商品が成功しているのかを次に考える必要がある。
3. アジア諸国における「日本」の存在
東アジア、東南アジア諸国の市場が大きな消費の伸びを見せるようになってからこの地域で積極的に事業展開を行っているのは、もちろん日本企業だけではない。酒類や飲料、食品という分野でもそれこそ世界中のメーカーが競って参入しつつある。その中で、日本企業の相対的優位という状況に関連する二つの側面を取り上げてみる。ひとつは「日本」という国のイメージの問題であり、もうひとつは生産・販売、マーケティングのノウハウという具体的な企業活動の面である。
(1) 「日本」のイメージ
アジア各国でサントリーのウイスキーやビール、またウーロン茶やオレンジジュースなどの飲料の販売を拡大していく際、先発の自動車や家電メーカー等が確立した「品質に対する信頼」は、まったく領域の異なる商品を販売する場合にも非常に追い風になったという。「使い勝手」や「性能」といった分かりやすい基準ではなく、微妙な味の違いしかない飲料の場合、商品の品質に対する信頼が大きく売れ行きを左右するのは、サントリーも欧米市場への進出失敗で経験していることである。
さらに、アジアでの日本イメージの形成には80年代以降の日本のマスカルチャー、ポップカルチャーの影響が大きい。とくに日本の漫画やアニメーション、コンピューターゲーム、ドラマや映画のアジア諸国への広がり方と受容のされかたには目を見張るものがあり、90年代にはいってからは受容の傾向にも変化が見られるようになってきている。
台湾や中国における日本のドラマに対する近年の人気について、日本の番組をもっとも好んで視聴するのは10代から20代の若い層であり、これらの若い層では日本のドラマの評価はアメリカ、香港、台湾のものよりも高い、という調査結果が出ている。その理由として日本のドラマは主観的にも客観的にもより身近でリアルに受けとめられ、共感と一体感を得られるからだという。その結果ドラマに出演している俳優やスターは身近なアイドルとして人気を博し、日本の経済的成功というイメージとも絡み合いながら、「日本」あるいは「日本の生み出すもの」が漠然と「かっこいい」と感じられ「あこがれ」の対象となる傾向が生じてきているのである。