仮にウィラントが更迭された後に、当然のことながらかなり大規模な人事異動が国軍の中で起こりますが、そこでこれまでウィラントの支持基盤であった強行派の将校、具体的に挙げますと、一番重要なのは陸軍の戦略予備軍という、これは一番重要な部隊を握っている司令部ですけれども、ここの司令官のポストがどのようになるのか、というようなことをこれからみなければいけない。
どうなるか今のところ予断を許しません。非常にコンフリクティングなニュースが入ってきております。一方では、ウィラント調整大臣自身が既に棚上げされる形での更迭に同意したという情報も入ってきておりますが、同時に、そういうことになったときには、ジャワのどこかで暴動が起こるという情報も入っておりまして、これはまだ何ともわからない。だけれども、直近のところでみますと、これから1カ月ぐらいのインドネシア政治で一番大きいのは、ウィラント問題だろうということは間違いないと思います。
○榊原 白石先生、ちょっといいですか。
○モデレーター どうぞ。
○榊原 非常に重要な問題なので若干質問させていただきますけれども、少なくとも2年ぐらい前まで、我々はインドネシア国軍というのはインドネシアの統合の象徴だと思っていたわけですね。おっしゃったような事態がいろいろなところで起こっていたということを専門家は知りながら、国軍なしにはインドネシアは維持できない、こういうのが白石さん含めて専門家の大体一般的な意見だった。
それが、どうして急にこういうことになってしまったかというのが質問の第一点で、第二点は、おっしゃるような縮軍を本当に平和裏にできるのか。そんな例が世界中であるのか。権力と武器をもっている軍隊の中の少なくとも半分近い人たちを、実際にワヒドが、政治的にある程度はサポートがあるにしても、それができるのか。当然、そういうときに考えられるのはクーデターであり、軍の中での暴動ですよね。そういうことなしに乗り切ることが本当にできるのか。客観的には非常に難しいということではないかと思います。乗り越えて欲しいと私は思いますけれども。
ちょっと長くなりますけれども、もう一つ質問とコメントですが、結局、国軍がそういう形で崩壊したというのは、先ほど白石さんがおっしゃいましたけれども、国に対する信頼がなくなったということですね。要するにネーション・ステートの崩壊なわけですね。おそらくネーション・ステートの崩壊というのは、違う形でどの国でも起こっている。政治に対する信頼がなくなって、統治機構に対する信頼がなくなっているというのは日本だって同じようなことが起こっているわけで、若干程度の違うだけの話でしょう。