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ですから、スハルト時代に何が起こったかといいますと、特殊部隊を突っ込みまして、特殊部隊が一方で火をつけて、一方で消すということをやって、その過程で、大体10年の間に、この数字はまちまちですが、少ない数字、これは政治発表で大体2,000人、人権団体の発表ですと7,000人の人が殺された。その他にも、もちろん逮捕されて拷問されたり、暴行されたりという人が数万の単位でいる。そういう人たちが、少なくとも将官はもちろん、佐官級の将校についても一切処分されていない。これをどうするのかというのがアチェにおいて一番大きい現在の問題です。

アチェの人たちが中央政府にこれまで要求しておりました、イスラム法の施行の問題であるとか、あるいは、ガス、石油からの法人税の分配問題というのは中央政府は全部譲る気でいます。唯一できないのは、1990年代になっていろいろなところで相当の人が殺され、殺すことを命令した司令官は全部わかっているのですが、それを処分できるかどうか。これが、実は現在の大統領府と軍の一番大きな問題です。

そうしますと当然のことながら軍にとっては過去の国軍司令官以下の責任問題ということになりますし、最近ではウィラント調整大臣の処分をどうするかという問題にもなってくる。軍の中では、国軍の軍人が忠誠を誓うべきは憲法であり大統領であり、前国軍司令官のウィラント調整大臣などというのは知ったことではない、仮に彼が人権委員会の事実究明の後、検察庁によって訴追されれば政府が法律に従って処分すればいいのだという考え方が一方でございます。改革派という人たちはかなり公然とそれを主張しています。

けれどもその一方で、そういうことをすると軍はクーデターを起こすのではないかとか、あるいはそういうことはいわないで、単にいろいろなところで、例えばアンボンでイスラム教徒とキリスト教徒の殺し合いが起こる。その結果、ハルマヘラという島で2,000人ぐらいのモスリムが殺される。それに対する抗議集会がロンボクで起こる。そこでだれかが火をつけると、それがぼんと来る。当然のことながらこれはメッセージなわけです。仮にこういうことが起こると、こういうことが起こるよと。

ですから私は、実は先週ロンボクで起こった後に、ひょっとしたらジャワに飛び火するのではないかと思って非常に心配しました。それはなぜかといいますと、これはジャカルタの権力闘争と連動している話でして、ちょうど1998年の5月に大暴動が起こりましたけれども、その裏で軍の内部の権力闘争があったのと似たような話が今も起こっている。

ですから、その意味で軍をどうするかというのは、榊原さんがおっしゃったとおり、今一番重要な問題です。そこでの一番のポイントは、ウィラントが更迭できるのかどうか。

 

 

 

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