実は私、何となく東ティモールの話から始めようと思っていたのですけれども、東ティモールというのは、はっきり申しますと、政治的にも、経済的にも、安全保障の面でも、すべてゼロの問題といっていいと思いますので、その問題については後で簡単に触れることにしまして、むしろ、今の榊原さんのお話を引き継ぐような形で話をしたいと思います。
まずスハルト体制の崩壊の問題ですが、経済的に申しますと、榊原さんがおっしゃったとおりなのだろうと思います。ただ、政治的に申しますと、少なくとも1990年代の初め―初めというのは93年、94年ぐらいになりますと、このスハルト体制が崩壊するのは時間の問題だろう。その場合の時間というのは3年なのか、5年なのか、それはわからない。そういう感じにはなっておりましたが、正直なところ、最悪のタイミングで、最悪の状況のもとで崩壊してしまったというのが、スハルト体制の崩壊の仕方だっただろう。
問題はそこから先なわけですけれども、現在のインドネシアの状況を理解するときに、おそらく二つのことを考えておく必要があるだろうと思います。一つは、ハビビ政権ができまして、その後、現在の政権ができてちょうど2年近くになるわけですけれども、ポスト・スハルトにおいてインドネシアの人たち、特にジャカルタのエリートがどういう教訓を引き出したのか、ということなのです。例えば、アジア経済危機について日本でもアメリカでも、東南アジアの他の国でもいろんな教訓が引き出されておりますが、実は、インドネシアの場合にはこの教訓について非常に大きなコンセンサスがある。
その教訓とは何か。彼らが引き出している教訓とは何かというと、スハルト長期独裁政権が32年も続いたから、インドネシアというのはこういう危機に陥ったのだと。つまり、権力があまりに集中したから危機になったので、だから今やるべきことは権力を分散させることだというのが、ごく簡単にいいますとインドネシアの人たちが引き出した結論です。
その結果、何をやっているかといいますと、当然のことながら政治システムを民主化していく。権力が一人の人間、あるいは軍と大統領のところに集中するのではなくて、政党であるとか、NGOであるとか、ジャーナリズムであるとか、極めていろいろなアクターが政治過程に参入していく。そういう意味で、多元的な政治システムを作っていくということを一つ教訓として引き出した。
もう一つは、中央にあまりに権力が集中し始めたからインドネシアというのはこういうことになったので、だから逆に、地方分権を促進すれば改革ができるのだということで、地方自治体法の改正が行われ、地方財政法の改正が行われ、ここでも権力のいわば地理的な分散、中央から地方への権力の移行が進んでいる。