それで、10月になってIMFが関与することが決まるわけです。この時点でも、まだ為替レートがそれほどひどい状態にはなっていない。たしか3,600とか、そういう状況でしたから。我々はそのときにインドネシア状況を分析して、これは為替レートを3,000ぐらいまで戻せば、当面の危機は回避できるというのが分析でした。
ですから、私どもがあのときにインドネシア救済のためのIMFパッケージをやるとすれば、小さなパッケージがいい。小さなパッケージにして、構造改革というようなことはあまり踏み込まないで、マクロ政策及び為替介入―実は、為替介入を我々は10月にやるわけです。シンガポールと日本とインドネシアの協調介入をするのですけれども、ある程度マクロ政策でバックをしながら、為替介入をやれば、為替レートが3,000ルピアぐらいまで戻るだろう、そのように我々は踏んで、むしろ小さなパッケージで介入を組み合わせて、ルピアを3,000ルピアまで戻せば、当面の金融危機は乗り越えられると考えました。
これは白石さんの立場からいえば、そういってもどうせ命脈は尽きていたのだから、政治的な問題あるのだからという立場があると思うのです。ただ、我々の立場は、あくまでテクノクラートとして他国の主権は侵害しないということが前提ですから、テクノクラートとして国際金融危機の問題を乗り越えるためには、あのプレスクリプションがよかったのだと思います。
ところが、これはIMFと激論しますけれども、IMFはいうことを聞かない。IMFは大きなパッケージを作るということで、おそらくアメリカあるいはインドネシアのテクノクラートと合意していたのだろうと思います。我々は非常に驚いたのですけれども、非常に抜本的な構造改革案、つまり、ナショナル・カー・プロジェクトまでやめる。ナショナル・カー・プロジェクトをやめてくれれば日本のために非常によかったわけです。ですけど、まさかそんなところまで踏み込まないだろうと我々は思っていたわけです。
それから、ガソリンに対する補助金、食料に対する補助金、流通の補助金、全部切るとしたわけですから、我々がそれを聞いたときの反応は、そんなことをスハルト大統領は受けるわけがない、そんなことをしたら政権崩壊してしまうではないかという話をしたら、いや、IMFの提案を受けるのだと、少なくともテクノクラートたちはそれで納得しているということでした。