公開シンポジウム:「多元的国際枠組の役割」(概要)
平成12年2月15日 於:全日空ホテル
シンポジウムでは、東南アジアにおける国連やIMFなどの国際機関、ASEANなどの地域機構の重層的な国際枠組の役割、またわが国を含む主要国の役割について、政治経済の両面からインドネシアの問題を中心にパネリストに議論していただいた。パネリストは榊原英資 慶應義塾大学教授(前大蔵省財務官)、白石隆 京都大学教授、千野境子 産経新聞社 論説委員、渡辺泰造 青山学院大学教授(前駐インドネシア大使)の4名、司会は大河原良雄 当研究所理事長が行った。
―インドネシア経済危機とIMF―
榊原教授は、インドネシアの通貨危機は避けることができたものあるとした上で、危機が拡大した原因は、インドネシアのテクノクラートやIMFがインドネシア社会の実態を考慮せずに、銀行の閉鎖など、大規模な制度改革を性急に進めようとしたことにあると分析した。また、スハルト体制の崩壊は、政権内でのバランスを一挙に壊してしまったとの見方を示した。さらに、地域的な経済危機は今後も起こり得るものであり、課題としては地域の中心国と周辺諸国の利害は異なるものであることから、それを調整するための国際的な機関が必要であるとした。
―インドネシア政治情勢と国際社会―
白石教授は、東ティモールは国際法的な領土の帰属に疑問があったために、国際的な支援を行いやすい特殊な事例であったと分析した。スハルト体制の崩壊は、国民の間に権力の集中がよくないことだという教訓を残したことを強調した。アチェやマルク地方(アンボン)などでは、制度としての国家そのものの信頼が揺らぐ深刻な事態となっており、インドネシアのユーゴスラビア化もあり得、国軍の動向が鍵となることを強調した。また、政治的な国際的な枠組みに関しては米国の存在が大きく、また、東南アジア地域では国際的なモニタリングなどが現実的な重要な手法であるとの見方を示した。
―インドネシア情勢とIMF、国連、ASEAN―
千野氏は、IMFのインドネシア経済危機への対応は、火消しに行って火を撒き散らしたようなものであり、その対策は実体経済を無視したものであったと批判した。また、東ティモールの独立問題では、国連は独立投票の選挙監視において中立性を維持すべきであったが独立を自明のものとして、事態を悪化させたのではないかとの見方を示した。また、国連にはタイアップ先としての地域機構が必要であり、ASEANはその役目を果たすべきであることなどを強調した。