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ロバート・オニール オックスフォード大学教授

(元国際戦略研究所(IISS)所長)講演会

「中国・台湾そして米国:戦略的および経済的な含意」

平成11年10月8日 於:ホテル・ニューオータニ

 

―李総統発言―

「台湾と中国は特殊な国と国の関係である」という旨の、今年7月の台湾の李登輝総統発言は、多くの議論のある両国関係に改めて言及したもので、私も当惑した一人である。最近、台湾に行った際に李総統に真意を質問してみた。李総統の説明は次のようなものだった。台湾は本質的には独立国家であり、両岸での対話はなされるべきであるが、台湾は香港とは異なったものである。台湾は中国の支配下にあるものではなく、台湾の国民がそれを望むものでもない。基本的には中国は一つであり、一つの国が二つの国家に別れているという特殊な状況にある。「特殊な」という点が重要なのであって、全く異なった国と国との関係というのではなく、この点を報道は正確に伝えていない。

私は李総統発言を台湾の国内政治という文脈の中で理解するべきであると思う。台湾は来年3月予定の総統選挙に3人が立候補しており、民進党が独立を掲げる中で、李総統が両岸関係について明確な意思表示をすることにより、自らが推薦する候補者をサポートすることを狙ったと考えられる。台湾政府高官で若干異なった発言をしている人もいるが、李総統が発言を撤回することはないだろう。李総統発言は綿密に計算されたゲームの一手といえるだろう。

―中国の五つのオプション―

私は昨年北京に行ったが、北京は台湾を自らのものとすることについて強い意志を持っており、李総統を非難していた。そのためには中国には五つのオプションがある。一つ目は、軍事力を行使し台湾を制圧しようとすることだが、台湾の空軍力に打ち勝たねばならず、大惨事を引き起こすだけだろう。二つ目は、中国が領有権を争っている金門島などの一つを占有することだが、第二次大戦中のマルタ島の例を見てもわかるように、よく警備されている島を制圧することは非常に困難である。三つ目は、空軍力と長距離ミサイルによる攻撃であり、これは軍事的にはさほど困難なものではないが、この場合も台湾の有力な空軍力が妨げとなるし、世界中からの非難を免れないものとなる。四つ目は、船舶に対する海上封鎖だが、これも国際的な非難を免れないし、大きな国際問題となろう。五つ目は、武力を伴わない威嚇であり、台湾を非難し、名誉を貶めるものである。

 

 

 

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