講演会
黒沢 洋 日本興業銀行会長 講演会
「ユーロ誕生と国際通貨情勢」
平成11年4月20日 於:ホテル・ニューオータニ
─ユーロ誕生から現在までの推移とその要因─
黒沢会長は、冒頭まず本年最初に行われたユーロ誕生以来、100日もの間ユーロの価格が下がっている原因について、背景事情を交え解説された。そして大別するとユーロの下落には3つの要因があると指摘し、第一の要因として、欧州諸国と米国の経済情勢の差異の存在、具体的には、欧州諸国の景気が米国景気とすれ違いを演じていることを上げた。つぎに、第二の要因として、欧州諸国と米国との金利差が重大な影響を与えていること、具体的には金利裁定の影響が大きいことを上げた。最後に、3番目の要因としては欧州固有の政治的要因であるコソボ問題を取りあげ、こうした要因が欧州諸国のファンダメンタルズとは裏腹にユーロの評価に影を投げかけていると指摘した。
─ユーロの今後の動きと市場の対応─
つぎに、黒沢会長は、ユーロの今後の見通しについて解説を行ない、今後、ほどなくしてユーロの対ドルレートは、ドルと等価していくとの見解を示した。これは、具体的にはユーロ誕生時の対ドルレート1.16が次第に1に近づいて行くことを意味し、ユーロが約6分の1減価することを意味する。そして、そのような見方が出てくる背景には、ユーロとドルの1対1レートを強く予想する市場の見方があることを紹介した。
─ユーロを巡る中心国ドイツ、フランスの歴史的要因─
さらに、黒沢会長は、ユーロ誕生の歴史的側面として、ユーロ地域の中心経済となっているドイツ、フランスの両国が、過去数限りない戦争を行っていることが陰に陽に影響を与えていることについて指摘を行った。
黒沢会長は、実際、これら両国が過去70年の間、フランスは、1871年の普仏戦争、第一次世界大戦、ヒットラーによる占領と、3度ドイツに占領されていると指摘し、これら事実だけを見ても、ユーロ創設の真の目的が経済問題的視点以外のところにあること、具体的には通貨統合がもたらす政治的要因である戦争回避等の政治的効果への期待が両国をはじめ欧州諸国に濃厚にあり、これはきわめてよく理解できるとの見解を示した。
─ユーロ誕生の影響・波紋─
つぎに、黒沢会長は、ユーロ誕生の他通貨、他経済への影響・波紋について指摘を行い、ユーロ誕生以来、域内における企業買収等が活発化しており、こうした現象は、ユーロ誕生の波紋ないしは重要な影響として起きつつあるものだとの指摘を行った。